スポーツ時の水分補給

スポーツ・運動中の水分補給に適した飲み物と飲み方【管理栄養士監修】

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運動・スポーツ中の水分補給はお茶でもいいの?

こんにちは!スポーツ栄養士の盛岡です。

「夏の練習」というと、私は学生時代の部活の地獄のような夏休みを思い出します。練習自体もキツイのですが、何より喉の渇きがとてもしんどい・・・。部活をしていたころは夏は大嫌いでしたね。

運動中の水分補給は適当にすればいいというものではありません。適切なタイミングに、適切な飲み物を飲まないと、エネルギーを激しく消耗してトレーニングの強度が落ちてしまったり、熱中症を招いて命の危険につながることさえもあります。

今回はスポーツ時に熱中症を予防するにはどんな飲み物がおすすめなのかや、適切な飲み方などの水分補給の方法について解説していきます。

水分の役割と必要性

水が体温調節に果たす役割

水分は酵素や栄養素を運んだり、老廃物を排出する働きなどがありますが、運動時は特に体温調節で大きな役割を果たします。

水分の役割・発汗による体温調節

水分が不足すると粘度の高いドロドロした血液になり、酸素や老廃物を運ぶ力も鈍ってしまうので、こまめに補給する必要があります。

運動中の水分補給の効果

気温と湿度が高い環境下で運動するときは、特に水分補給を意識して行うことが必要です。

運動は筋肉の収縮により行われ、二酸化炭素、乳酸、そして熱などの代謝産物を生じます。

水はその筋肉で産生された熱を血液により皮膚まで運んだり、汗が皮膚で気化する際に皮膚の熱を奪い、皮膚温を下げる「打ち水」のような役割を持っています。その結果体からの放熱を増すために、皮膚の血流量が増して皮膚静脈に血液がたまり、発汗が生じます。

仮に100gの汗をかき、それが全て皮膚から蒸発したとすると、その気化熱で体温を約1℃下げることができます。

水分補給がされないままでいると、体の熱を放出できなくなり、体温はどんどん上昇していきます。そうすると、汗をかこうと皮膚の静脈にどんどん水分が溜まり、心臓の方に回ってくる血液が少なくなります。

やがて、血液が十分に来ないことで心臓が運び出す血液の量(心拍出量)が少なくなり、筋肉で発生した熱を運べなくなってさらに体温が上昇するという悪循環が生じてしまうのです。

では、具体的にどのくらいの水分が失われることでどのような影響が出るのでしょうか?

  • まず体重の1%が汗として失われたあたりから、スポーツパフォーマンスの低下は徐々に始まります。
  • 2%が失われると、自覚症状はないものの確実に動きが鈍くなってきます。
  • 3~4%の減少では、パフォーマンスの低下や疲れが自他ともに認識されるようになります。
  • 5%以上の水分が失われると吐き気やめまいなどが生じ、最悪の場合は意識障害などが起こります。

このため、汗の量に応じてきちんと水分補給をしていくことが必要になるわけです。

熱中症対策のための水分補給

ここでは特に気温が高く、熱中症のリスクが高いときの水分補給のポイントについて解説します。

①運動前の補給量とタイミング

運動30分前までに250~500mLの水分補給を

運動前では、直前に水分をとり過ぎると、胃が重くなり運動の負担となります。タイミングと量は、基本的にはどのスポーツも競技を始める30分前までに250~500mL程度の水分をとるようにしましょう。

また、スポーツドリンク程度の糖分でしたら問題ないのですが、30~40分前のタイミングでオレンジジュースなどの糖分を多く含む飲料を飲むと、運動開始直後に血糖値が急激に下がる「インスリン・ショック」を引き起こす恐れがありますので注意が必要です。

②運動中の補給量とタイミング

1時間ごとに500~1,000mLの水分補給を

運動中の水分補給では一度に大量に飲むと水が胃にたまって競技に影響してしまいますので、できるだけこまめに水分補給をすることが大切です。

タイミングと量は、理想は15分ごとにコップ半分~1杯分(100~250mL)程度の量が目安になります。15分ごとに補給するのは実際の運動時には難しいかもしれませんが、1時間で合計500~1,000mLを目安に補給をしましょう。

ただし、必要な水分量は状況によってことなります。気温が高い、運動強度が高い、体が大きい人の場合は多めの量を、その反対なら少なめの量にしなければなりません。

のどが渇く前に補給する

また、のどが渇いてからではそのときにはすでに体の脱水は進行しています。

飲んだ水分は体に吸収されるまでに時間がかかりますので、長時間の練習やマラソンなどでは喉が渇いたと感じる前に水分補給を行うことも大切です。

ペットボトルやスクイズボトルを携帯したり、ランナーであれば途中でドリンクを購入できるように小銭を持って走りに出かけましょう。

スポーツ時に適した飲み物

熱中症対策にはスポーツドリンクを飲む

涼しい時期や軽い運動時には熱中症のリスクが低いため、麦茶や緑茶などのお茶、ミネラルウォーターで水分補給をしても大丈夫かと思います。しかし気温の高いときや長時間の運動時には、糖質と塩分の両方が含まれるスポーツドリンクを選ぶことが大切です。

100mLあたりナトリウム40~80mg、炭水化物2.5~8g、温度5~15℃のスポーツドリンクを選ぼう

汗で失われる塩分(ナトリウム)の補給

運動で汗をかくと、水分だけでなく塩分(ナトリウム)などのミネラルも体外に放出されます。

体には体液のミネラル濃度をできるだけ一定に保とうとするはたらきがあるため、塩分の含まれていない真水やお茶で水分補給をしても、細胞レベルではなかなか吸収されません。

もちろん全く吸収されないわけではありませんが、逆に一気に大量に真水を摂取したりすると、体液が薄まる「低ナトリウム血症」をおこし、ときにはけいれんや意識障害を引き起こすこともあります。

したがって脱水量の多いときほど、塩分を含んでいる飲料を選ぶことが大切です。日本体育協会では、運動中の飲料では0.1~0.2%の塩分(ナトリウム換算では100mLあたり40~80mg)を含むものを推奨しています。体液に違い塩分濃度ですと速く吸収されるというメリットもあります。

水分の吸収における糖質の重要性

「スポーツドリンクは美味しくするために糖分を多く入れすぎている」「糖分は水分の吸収を悪くするので薄めた方がよい」

スポーツドリンクについて、こんなアドバイスを受けた方も多いのではないでしょうか。何かと悪者扱いされる糖質ですが、スポーツドリンクには意味もなく糖分を入れているわけではありません。

糖分濃度と吸収率の関係

糖質には小腸での水分の吸収を促進するはたらきがあり、糖質濃度が2.5~8%のところで最も吸収率が高い状態になります(※1)。この領域を「至適水分補給域」といいます。

(詳しいメカニズムについては「アイソトニック飲料とハイポトニック飲料の違い」のページをご参照下さい。)

一方で濃度が8%を超えると、胃から小腸への移動が遅くなり、水分の分泌が促されることから、真の水分吸収が抑えられていきます。

つまり、ある程度の糖分が含まれている方が水分は効率よく吸収されるのです。スポーツドリンクの場合、糖分の量はほぼ炭水化物の量と考えられますので、栄養成分表示に「炭水化物」が100mLあたり2.5~8g含まれているものを選ぶとよいでしょう。

スポーツドリンクの適切な糖質濃度は?

また、糖質には運動する上でのエネルギー源になるという重要なはたらきも持っています。長時間の運動をする際には、高いパフォーマンスを維持する上でも、糖質の摂取は欠かせません。

「糖質を含む飲料を飲ませた群」と「糖質を含まない飲料を飲ませた群」とで、体力がどれだけ持続するのかを比較した実験があります(※2)

糖分のある飲料で体力が持続

「糖質を含まない飲料を飲ませた群」は、運動時間が120分を過ぎたころから運動強度(VO2MAX)が大幅に低下したのに対し、「糖質を含む飲料を飲ませた群」は180分まで高いパフォーマンスを維持できるという結果になりました。

糖質はカロリーがあるのでどうしても敬遠されてしまいますが、エネルギーが不足することによって疲労を招き、トレーニング強度やパフォーマンスを下げてしまうのでは、短期的にも長期的にもプラスにはなりません。

こうしたエネルギー源としての役割も考慮して、日本体育協会では長時間の運動の際には糖質濃度が4~8%の飲料を飲むことを推奨しています。

ただ夏場など発汗量が非常に多く、水分の補給が最優先のときには、浸透圧の低い糖質濃度2~3%台のスポーツドリンクや、経口補水液を検討してもよいでしょう。

市販の飲料の選び方について詳しくは「スポーツドリンクの成分比較と選び方」「経口補水液とスポーツドリンクの違い」をご参照下さい。

マラソンの大会ではエイドにスポーツドリンクと水と並べて置いてあることもありますが、水分補給にはスポーツドリンクを選んで、水は体にかけて冷やすために使用するとよいでしょう。

温度は5~15℃に冷やす

温度は5~15℃に冷やすと胃から腸への通過も速くなり、体温上昇の抑制にも効果があります。しかし、水温が低すぎると消化管の機能を阻害する可能性があるので、運動中に氷水をがぶ飲みすることは望ましくありません。

補給するべき水分量を把握する

発汗量の測定

目安の補給量はお伝えしましたが、厳密には必要な水分量は運動する季節や個人の体格などによって異なります。そのため運動前と運動後に体重を計り、普段の運動時にどのくらいの汗をかいているのか把握してみることは、水分補給の遅れによる脱水や飲み過ぎを防ぐ上でとても大切です。運動中の汗の量は下記の式で算出できます。

発汗量=運動前の体重-運動後の体重+運動中に補給した水分量

体重のおよそ3%の水分が汗として失われると、運動能力、体温調整能力の低下が見られます。運動中の発汗による体重減少量は、運動前の2%以内にとどめるようにしましょう。

競技中には発汗量の70~80%の水分を補給する必要がありますが、運動時に水分を「好きなだけ」とった場合、汗などで失った量の2/3程度しか補給できていないと言われています。

とくに子どもは、一度に大量の水分をとったり、逆に飲まないこともあるので、水分補給の「タイミング」と「自分に必要な量」は把握しておくとよいでしょう。

スポーツドリンク利用の際の注意点

水で薄めるのはあまりよくない

カロリーが気になる、あるいは「薄めた方が吸収が速い」という話を聞いて水で薄めている方もいるかと思いますが、熱中症対策の観点からは薄めない方がいいです。

スポーツドリンクの多くはナトリウム濃度が40mg/100mLで設計されており、これを仮に2倍に薄めるとナトリウム濃度は20mg/100mL程度になります。これでは飲めば飲むほど体液が薄くなり、熱中症対策の効果が弱まってしまいます。

甘すぎると飲みにくいということであれば、糖分が少なめのスポーツドリンクを選ぶようにしましょう。

詳細は「スポーツドリンクは薄めると熱中症にいい?」をご参照ください。

凍らすのはあまりよくない

冷たい方が美味しいからといって凍らすのはよくありません。スポーツドリンクを凍らすと糖などの水よりも重い成分は、容器の上層部では薄く、底のほうでは濃い状態で凍ってしまいます。

このため溶けたときに上層部と下層部で、成分と味が不均一になってしまいますので、溶け始めから終わるまで、同じ濃度で飲めなくなります。

傷のある水筒に入れてはいけない

水筒やヤカンなどの金属製の容器の場合、容器の金属成分が飲み物の中に溶け出して中毒を起こすことがあります。

これらの容器は通常コーティングされていて、金属が過剰に溶けないようになっていますが、容器や調理器具に傷が付いていたりすると、酸性のスポーツドリンクと反応し、金属成分が過剰に溶け出して思わぬ事故につながることがあります。

特に、銅は多量に摂取すると中毒を起こす可能性があります。

内側に傷がついた水筒による事例

容器の内部にサビや傷がないかよく確認し、容器は定期的に新しいものに交換しましょう。

追記:水素水はスポーツドリンク?

最近ではスポーツや運動中には「水素水」という飲料がよいという記事が雑誌やネットでちらほら見られるようになりました。水素水サーバーを設置しているスポーツクラブもありますね。

水素水とはその名の通り水素を含んだ水のことで、「抗酸化作用があるので活性酸素を除去し、スポーツ時の疲労回復や免疫力アップによい」というロジックで販売されています。

しかし、水素水がスポーツ時の水分補給にいいというのは完全に大ウソです。水素水の抗酸化作用やその他有効性については十分な科学的根拠はなく、疲労回復や免疫力アップという効果もありません。

そして何より水素水には肝心のナトリウムや糖分がほとんど含まれていません。これらが含まれていなければただの水を飲んでいるのと同じで、スポーツ時の熱中症対策ができません。炎天下であったら水素水を飲むのは危険ですらあります。

もし抗酸化成分を取りたいのであれば、練習後にオレンジジュースでも飲んでビタミンCを補給すれば十分です。

まとめ

  • 水分は体内の熱を放出し、熱中症を予防するために不可欠である
  • 走り始める30分前までに、250~500mLの水分をとる
  • 走っているときはこまめに(理想は15分ごとに)100~250mLの水分をとる。1時間の中で合計500~1,000mLの水分を目安にする。
  • 飲料は水やお茶ではなくスポーツドリンクを選び、水分だけでなく塩分も補給する。
  • スポーツドリンクの温度は5~15℃が望ましい
  • スポーツドリンクは水で薄めてはいけない
  • スポーツドリンクは凍らしてはいけない
  • 傷のある水筒は使用しない
  • 水素水はスポーツ時の飲料には適していない

参考文献

日本体育協会:「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」,2013.
田口素子・樋口満 編:「体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学」.市村出版,2014.
小林修平・樋口満 編:「アスリートのための栄養・食事ガイド」.第一出版,2001.
加藤秀夫・中坊幸弘・中村亜紀 編:「スポーツ・運動栄養学」.講談社,2012.
1) Brouns F: Nutritional needs of athletes. John Wiley & Sons, p70, 1993.
2) Coyle E.F, Hagberg J.M, Hurley B.F, Martin W.H, Ehsani A.A, Holloszy J: Carbohydrate feeding during prolonged strenuous exercise can delay fatigue. Journal of Applied Physiology 55, 230-235, 1983.
東京都福祉保健局:「酸性飲料による金属容器の成分の溶出に伴う中毒」

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