こんにちは!管理栄養士の盛岡です。
暑い季節にはスポーツドリンクを飲むようにしている方も多いと思いますが、水で薄めたり他の飲料で割って飲んだりしていませんでしょうか?
私も陸上をやっていた学生のころには水で薄めたものを飲んでいました。
誰かから「水と1:1の割合で薄めた方がいい」と聞いて、運動しているときには味も薄い方があっさりして飲みやすかったのでそうしていたのですが、熱中症対策という意味では効果があるのでしょうか。
そこで今回はスポーツドリンクを薄めるのは、本当に熱中症対策にいいのかについてご説明いたします。
目次
状況によって考えよう
スポーツドリンクを薄めたいというのは「そのままだと甘すぎて飲みにくいから」「ダイエット中だから」「水分の吸収が速くなると聞いたから」と人によって理由は様々かと思います。
水で薄めれば当然甘さはスッキリしますし、単位量あたりのカロリーも減りますが、「熱中症対策」という観点では以下のように考えてください。
- 脱水量が多いときは薄めない方がよい
- 脱水量が少ないときは薄めてもよい(あまり気にしなくてもよい)
以下、その理由を説明いたします。
脱水量が多いときは薄めない方がいい理由
水で薄めるのは熱中症対策には逆効果
熱中症対策のためには、脱水量が多いときはスポーツドリンクを薄めない方がいいです。その理由は、水で薄めると十分な塩分(ナトリウム)補給ができなくなるためです。
激しい発汗のときの熱中症対策には、水分補給だけでなく汗で失われた塩分の補給が必要で、また糖分も水分の吸収を促進する働きがあるため重要になります。
この塩分や糖分の量については、ナトリウムは40~80mg/100mL、糖分は2.5~8.0g/100mLが適切な量とされています。
詳細記事:スポーツ・運動中の水分補給方法 ›
市販のスポーツドリンクの成分は、代表的な商品では塩分・糖分は以下の濃度で含まれています。
商品 | 成分(100mLあたり) | |
糖質 | ナトリウム | |
ポカリスエット | 6.7g | 49mg |
グリーン DAKARA | 4.4g | 40mg |
ミウ プラススポーツ | 4.9g | 56mg |
アクエリアス | 4.7g | 40mg |
アミノバリュー | 3.6g | 49mg |
ラブズスポーツ | 3.4g | 50mg |
どの製品もナトリウム濃度が40~50mg/100mLで設計されており、糖質も若干ばらつきがありますが2.5~8.0g/100mLの範囲にあることが分かります。
水で薄めたときの塩分濃度は…
ではこれらを仮に2倍に薄めるとどうなるでしょうか。
ナトリウム濃度は20~25mg/100mLになってしまい、塩分補給がしにくくなってしまいます。
「塩分が薄いのなら、その分たくさん飲めばいいのでは?」と思うかもしれませんが、脱水量が多いときに濃度の薄い飲料を飲むと、飲めば飲むほど体液がどんどん薄くなってしまい「低ナトリウム血症」という症状を引き起こす可能性もございます。
そうなると脱水が改善されるどころか、最悪の場合は意識障害などにつながる危険性すらあるのです。
また35℃を超える猛暑日では、スポーツドリンクでも塩分補給が間に合わないことがあります。真夏の時期に屋外でスポーツや作業をする際には、より塩分を多く含む経口補水液も検討しましょう。
薄めてから食塩を足すのは…
水で薄めた後に塩をひとつまみ足すというのはアリかもしれませんが、人の手が加わることで雑菌が入る可能性もございます。
また、スポーツドリンクに含まれているカリウムやカルシウム、マグネシウムなどのミネラル摂取も水分補給時には大切ですが、食塩ではこれらのミネラルを補うことはできません。
これらの栄養素が大量の発汗によって不足して、体のミネラルバランスが崩れると、筋肉のけいれんを引き起こす一因にもなります。つまり足がつる可能性が高くなるということです。これはスポーツ選手にとっては特に困ることだと思いますので注意してください。
甘さ控えめのものを飲みたい場合は
もし甘さ控えめの飲料を飲みたい、あるいはカロリーが低いものを飲みたいという場合には、糖分が少なめの(かつ塩分は十分に含まれている)スポーツドリンクを選ぶようにしましょう。
糖分が少なめのスポーツドリンクには下記のような商品があります。
商品 | 成分(100mLあたり) | |
糖質 | ナトリウム | |
スーパーH2O | 2.9g | 40mg |
イオンウォーター | 2.7g | 40mg |
アミノバイタル | 2.8g | 41mg |
これらの飲料であれば十分に塩分補給ができるのでよいでしょう。
薄めた方が水分の吸収が速い?
スポーツドリンクを薄める理由として、「スポーツドリンクは糖分が濃すぎて水分の吸収が悪いため、薄めた方がよい」と言われることもありますが、これは必ずしも正しくはありません。
ポカリスエットやアクエリアスは「等張液(アイソトニック飲料)」といい、安静時のときに効率よく水分が吸収される濃度で塩分や糖分が配合されているのですが、運動時の脱水状態の体は体液が薄くなっているため吸収率が少し悪くなります。
一方で濃度の薄い飲料のことは「低張液(ハイポトニック飲料)」といい、運動時の体液濃度が薄い状態と相性がよいため速やかに吸収されます。
(※このメカニズムは「浸透圧」という理論が関係しています。詳しく知りたい方は「アイソトニック飲料とハイポトニック飲料の違い」をご参照下さい。)
したがってポカリスエットなどの糖分が濃い目のスポーツドリンクは、水で薄めればたしかに運動時は水分の吸収が速くなります。
しかし上の表で挙げたラブズスポーツやアミノバリューのような、もともと糖分が少なめの飲料では濃度が薄くなりすぎる可能性があります。糖質濃度が2.5g/100mLを下回るまで薄くなると、かえって水分の吸収が悪くなってしまいます。
いずれにしても、水で薄めると塩分・ミネラル補給がしにくくなりますのでやはりよくありません。
脱水量が多くないときは薄めてもいい
例えば以下のような脱水量がそれほど多くもなく熱中症のリスクが低い場合には、成分について細かくこだわる必要はないでしょう。
- あまり暑くない時期
- 軽い運動や室内トレーニングをしているとき
- 風呂上がり等、普段の生活で喉が渇いたとき
こういったときには状況をみて薄めてよいですし、水やお茶で水分補給をとっても大丈夫です。
長時間の運動には糖質が大切
ただし、この記事を読んでいるあなたがスポーツ選手であるなら、暑くないときであっても薄めることはもう少し考えてください。
糖質には水分の吸収を助けるという効果だけでなく、体のエネルギー源になるという大切な役割があります。長時間の運動では体力・集中力を維持するという観点から、日本体育協会では糖質濃度が4~8%の飲料を飲むことを推奨しています。
スポーツドリンクを水で薄めるのは、必ずしもいけないわけではありません。糖質はただ味をおいしくするためだけに配合されているものではないことはお分かり頂けたと思いますので、状況・体調を考慮して適切な飲料を選ぶようにしましょう。
まとめ
- スポーツドリンクを水で薄めると、糖分だけでなく塩分も薄くなってしまうため、熱中症対策の観点ではよくない
- 糖分には水分の吸収を促進する働きがあるため、薄めすぎると水分の吸収も悪くなる
- もし糖分が薄いものを飲みたいなら、もともと糖分が薄めに設計されている「ハイポトニック飲料」を飲むようにする
参考文献
日本体育協会:「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」,2013.
田口素子・樋口満 編:「体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学」.市村出版,2014.