こんにちは!管理栄養士の盛岡です。
スポーツドリンクは商品によってはCMやホームページで、「アイソトニック飲料」・「ハイポトニック飲料」と表記されているものがありますが、これらの種類の違いは何なのか分かりますか?
熱中症の予防や競技パフォーマンスの維持のためには、これらの特徴を理解し、状況に応じて適切な飲料を選ぶことが大切です。
今回はこれらの飲料の特徴を知る上でカギとなる「浸透圧」の理論についてまずご説明し、後半ではアイソトニック飲料とハイポトニック飲料の比較、そして市販の商品を一覧でご紹介いたします。
目次
浸透圧の理論について
ハイポトニック飲料やアイソトニック飲料というのは、「浸透圧」という圧力の違いによって分類されています。
したがってハイポトニックやアイソトニックとは何なのかを深く理解するためには、「浸透圧」という理論を先に理解する必要があります。
「小難しい理論なんかどうでもいいから、ハイポトニック飲料とアイソトニック飲料の違いや商品を教えて!」という方は、記事の後半でご説明していますのでこちらをクリックして下さい。
浸透圧とは?
生体内の液体は、細胞膜を境にして、細胞内液と細胞外液とに隔てられています。細胞膜というのは、一種のフィルターのようなもので、液体は透過しますがそれに溶けている物質は通過するものとしないものとがあります。
小さな分子ですと、膜を通過して自然に拡散するものもあり、その場合物質は濃度の濃い方から薄い方へと移動し、内外の濃度差を均等に近づけるように働きかけます。
反対に物質が膜を通過できない場合、液体の方が薄い方から濃い方へ移動することによって、内外の濃度差を均等に近づけるように働きかけます。
この濃度の薄い方から濃い方へ水を引っ張る力のことを「浸透圧」といいます。
身近な例では漬物をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。漬け汁は塩分が多く含まれていますが、野菜の方にはあまり含まれていません。そのため野菜の水分が漬け汁の方へ排出されてしまうのです。
なお希薄溶液では、P=CRTの関係があります。Pは浸透圧、Cは溶液の濃度(モル濃度)、Tは絶対温度(℃+273)、Rは定数で0.082になります。「ややこしいこと言うなよ」と思うかもしれませんが濃度が濃いほど浸透圧は強くなるということは覚えておきましょう。
ヒトの細胞は、0.9%の食塩水(生理食塩水)と浸透圧が等しく、これを等張液といいます。それよりも濃度が低い溶液はと細胞より浸透圧が低い低張液といい、反対に濃度が高い溶液はは浸透圧が高い高張液といいます。
浸透圧の低い飲料は吸収が早い
スポーツドリンクにおいては、塩分と糖分の2つの濃度が浸透圧に深く関わっています。
これらの濃度が低く、体液よりも浸透圧が低い場合は、下の図のように腸での水分の吸収はスムーズに行われます。
反対に、濃度が高く体液よりも浸透圧が高い場合は、反対に水分の分泌が促されるため、吸収率は悪くなります。
塩分と浸透圧の関係
塩分(ナトリウム)の役割
ナトリウムは大部分が血漿や組織間液といった細胞外液に含まれており、食塩、リン酸塩、炭酸水素塩として存在しています。生理機能として細胞外液の浸透圧の調節、体液pHの調節、水分代謝、神経の刺激、筋肉収縮に関わっています。
発汗や軽度の脱水症の場合には、細胞外液が主に喪失するために、水分もナトリウムイオンも喪失します。
脱水の種類
脱水症とは体液が奪われる現象で、軽度の脱水症では細胞外液が主に喪失し、重度になるにつれて細胞内液も喪失していきます。
軽度の脱水では不足した水分は細胞内液からの移動により補われるために、見かけ上のナトリウムイオン濃度は変化がないか(等張性脱水)、移動した水分量が多くナトリウムイオンが希釈されて低ナトリウム血症となります(低張性脱水)。
しかし、重度の脱水症では細胞内液からの水分移動が間に合わなくなるために、相対的にナトリウムイオン濃度が増加し高ナトリウム血症となります(高張性脱水)。
このように脱水には3つのタイプがあります。
水だけを飲むとどうなるのか
体内の水分が不足すると、脳にある口渇中枢が刺激され、口渇感が生じます。この際に、真水(塩分を含まない水分)のみを飲んでも口渇感は満たされますが、それだけでは不十分です。
もし運動や気温の高い環境下で脱水時に水分だけを補給すると、やがて血管内へ水分が移動します。この結果、体液のナトリウム濃度、特に細胞外液の濃度が薄くなっていきます。
細胞外液に最も多く存在するナトリウムイオンはその影響を受け、全身の倦怠感・吐き気・嘔吐などの症状が現れ、さらにひどくなると意識障害やけいれん・昏睡に至ることがあります。以上のような症状を、希釈性低ナトリウム血症と呼びます。
塩分(ナトリウム)だけをとるとどうなるのか
では反対に、たくさん汗をかいたからといって塩を直接舐めるとどうなるでしょうか。また最近では塩分を補給する目的のタブレットも多く市販されています。
もし過剰に塩分を補給すると、体が高張性脱水を起こしていると脳が判断し、体から汗をかきにくくしてしまいます。そのため熱が放出されず、かえって熱中症の危険性が高まりかねません。
塩を直接舐めるとしても、その摂取量には十分気をつける必要があります。また、塩タブレットを食べる場合も水分を同時にとるよう気を付けなければなりません。
水分は適度な塩分と一緒にとることが大切ということですね。
糖分と浸透圧の関係
糖分は水分吸収を促す
多くのスポーツドリンクには糖分が含まれていますが、これは味を美味しくするためだけに配合しているわけではありません。
摂取した水分は腸で吸収され体全体へ運ばれますが、糖質は塩分と一緒にとることによって、腸管での水分の吸収を促進する働きがあるのです。
腸管には「SGLT1」という栄養素の運び屋のようなものがいるのですが、主要な糖であるブドウ糖は、ナトリウムが同時にあるとSGLT1によって速やかに吸収されます。そして塩分と糖分に引っ張られ水分も吸収されるというのがそのメカニズムです。
ただし糖分も多すぎる場合、胃から小腸への移動が遅くなり吸収率が悪くなってしまいます。さらに濃度が高いということは浸透圧も高く、水分の分泌が促されるため、真の水分吸収は抑えられることになります。
スポーツドリンクでは、糖分濃度は2.5~8%のものですと素早く水分が吸収されます。
糖質は運動中の貴重なエネルギー源にもなる
また糖質は、運動時のエネルギー源になるという役割もあります。糖質は体内貯蔵量が少なく、数時間運動を継続する場合、約1時間で血糖値が低下し始めます。
そこで糖質を含む飲料で、経口的にエネルギーを補給することが望ましく、1時間に30~60gの糖質を摂取すると疲れにくくなります。日本体育協会では、1時間以上の運動をする場合はこのエネルギー補給の点も考慮して、4~8%の糖質を含む飲料を飲むことを推奨しています。
スポーツドリンクにおいては糖分と炭水化物はほぼ同量ですので、パッケージの栄養成分表示を見る際には、炭水化物が100mLあたり4~8g含まれているものになります。
アイソトニック飲料とは
長くなりましたがいよいよアイソトニック飲料とハイポトニック飲料の違いについてご説明いたします。
まずアイソトニックとは「等張液」という意味のことで、スポーツドリンクにおけるアイソトニック飲料とは、ヒトの安静時の体液と同じ濃度の飲料ということになります。
アイソトニック飲料を選ぶメリットは次の2つです。
1.安静時においては同じ浸透圧のため吸収が速い
2.糖質が多く含まれていてるので、長時間の運動のエネルギー源になる
安静時においては体液と同じ浸透圧のため、水分・糖分・塩分がバランスよく吸収されます。しかし、発汗により塩分が多く排出されると体液の浸透圧は低くなるため、運動時には水分の吸収スピードは少し遅くなります。
ハイポトニック飲料とは
ハイポトニックとは「低張液」という意味のことで、ハイポトニック飲料とはナトリウムや糖質の濃度が低めで、ヒトの安静時の体液よりも低い浸透圧の飲料のことをいいます。
そのためハイポトニック飲料には次のメリットがあります。
1.運動による発汗で、体液が薄くなっている状況おいては水分が腸管で速く吸収される
2.糖分が少ないためカロリーが低く、減量時の飲料に向いている
運動して汗をかくと体液の浸透圧は低くなっているため、アイソトニック飲料よりもハイポトニック飲料の方が水分が速やかに吸収されます。
また水分補給をしてすぐ運動を再開した際、お腹にタポタポと水が溜まっている感覚を覚えたことは誰しもあるのではないでしょうか?浸透圧の理論でお伝えしましたように、適量の糖質は水分の吸収を促進する効果があるのですが、一方で糖質濃度が濃いほど胃での滞留時間が長くなるのです。
発汗量が多い時期にはエネルギーよりも水分補給を優先した方がよいので、糖質がやや薄めのハイポトニック飲料の方が適しているといえるでしょう。
また、熱中症や感染症など激しい脱水のときに推奨されている「経口補水液」も、浸透圧が低めに設定されていますのでハイポトニック飲料の部類にあたります。
アイソトニック飲料とハイポトニック飲料の比較
以上の特徴の違いを、比較できるよう表にまとめてみました。
アイソトニック飲料 | ハイポトニック飲料 | ||
スポーツドリンク | スポーツドリンク | 経口補水液 | |
浸透圧 | 体液と同じ | 体液より低い | 体液より低い |
ナトリウム (100mL中) |
40~55mg | 40~55mg | 80~115mg |
炭水化物(糖質) | 4~6% | 2~3% | 2%前後 |
運動前の補給 | ◯ | △ | △ |
運動中の 水分・塩分補給 |
△ | ◯ | ◯ |
運動中の エネルギー補給 |
◯ | △ | △ |
熱中症時の 水分・塩分補給 |
△ | △ | ◯ |
※比較のため「△」と表記していますが、もちろん飲んではいけないわけではありません。
アスリートにとって体力と集中力を保つために、糖質は重要なエネルギー源になります。
長時間の運動時には発汗量も必然的に多くなるため、アイソトニック飲料にするかハイポトニック飲料にするか微妙なところです。ただ熱中症のリスクが特に高くなる真夏日は、ハイポトニック飲料のスポーツドリンクや経口補水液を選び、水分補給を優先するとよいでしょう。
市販されている商品の一覧
スポーツドリンクは味が違うだけでどれも一緒のように見えてしまいますが、濃度の違いに着目してみると色々な種類があることが分かります。
以下にアイソトニック飲料とハイポトニック飲料を比較できるよう、それぞれ一覧で掲載します。表記の炭水化物の濃度については、ほぼ糖質の濃度とイコールと考えてよいでしょう。
アイソトニック飲料の商品一覧
代表的なアイソトニックのスポーツドリンクには以下のものが市販されています。
<アイソトニック飲料と100mLあたりの成分>
商品名 | エネルギー | 炭水化物 (糖質) |
ナトリウム |
ポカリスエット | 27kcal | 6.7% | 49mg |
miu プラススポーツ | 19kcal | 4.9% | 56mg |
グリーン ダ・カ・ラ | 18kcal | 4.4% | 40mg |
アクエリアス | 19kcal | 4.7% | 40mg |
ボディメンテ | 19kcal | 4.4% | 51mg |
ビタミンウォーター | 18kcal | 4.1% | 40mg |
ハイポトニック飲料の商品一覧
代表的なハイポトニックのスポーツドリンクでは以下のものが市販されています。
<ハイポトニック飲料と100mLあたりの成分>
商品名 | エネルギー | 炭水化物 (糖質) |
ナトリウム |
アミノバリュー | 18kcal | 3.6% | 49mg |
ラブズスポーツ | 14kcal | 3.4% | 50mg |
スーパーH2O | 12kcal | 2.9% | 40mg |
アミノバイタル | 13kcal | 2.8% | 41mg |
イオンウォーター | 11kcal | 2.7% | 40mg |
VAAMウォーター | 0kcal | 0.7% | 40mg |
アクエリアス ゼロ | 0kcal | 0.7% | 40mg |
また、市販の経口補水液で代表的なものは以下になります。
<経口補水液と100mLあたりの成分>
商品名 | エネルギー | 炭水化物 (糖質) |
ナトリウム |
OS-1 | 10kcal | 2.5% | 115mg |
アクアソリタ | 7kcal | 1.8% | 80mg |
アクアサポート | 9kcal | 2.3% | 115mg |
スポーツドリンクには糖分やナトリウムだけでなく、アミノ酸など様々な成分が含まれています。選び方について詳しく知りたい方は「スポーツドリンクの比較とおすすめ」のページをご参照下さい。
まとめ
- スポーツドリンクはナトリウムと糖分が浸透圧に深く関わっている
- 脱水症と熱中症を予防するには、適度にナトリウムと糖分を含んだものを飲むとよい
- アイソトニック飲料は糖質が多く含まれ、エネルギー補給に優れている
- ハイポトニック飲料は浸透圧が低い分、水分とミネラルの吸収が速い
- 経口補水液は塩分濃度が高く、熱中症発症後の処置や予防に優れている
参考文献
日本体育協会:「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」,2013.
木元幸一・後藤潔 編:「生化学」.建帛社,2009.
佐藤隆一郎・長澤孝志 編:「わかりやすい食品機能栄養学」.三共出版,2010.
小林修平・樋口満 編:「アスリートのための栄養・食事ガイド」.第一出版,2001.
谷口英喜:「経口補水療法ハンドブック[改訂版]」.日本医療企画,2013.
日本体育協会ホームページ:「LIVE ON SEMINAR Q&A」
http://www.japan-sports.or.jp/medicine//tabid/933/Default.aspx
スポーツドリンク各メーカーのホームページ