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酵素サプリ・酵素ドリンクはダイエット効果なし?【管理栄養士監修】

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酵素サプリメントや酵素ドリンクでは痩せられない理由

こんにちは。スポーツ栄養士の盛岡です。

ダイエットサプリにおいて、最も広く流通されているものの1つに酵素サプリ・酵素ドリンクがあります。新聞にはよく酵素サプリの折込チラシが入っていますし、楽天でも酵素の含まれているサプリメントやスムージーは常にランキングの上位です。

それらしいメカニズムや芸能人がおすすめしていたりすると「これなら痩せられそう!」と思ってしまうかもしれません。

私の担当しているスポーツジムのお客様でも、女性を中心に飲んでいる方がよくいるのですが、食事指導の際に私が必ずお伝えするのは「酵素サプリで痩せられるというのは真っ赤な嘘」ということです。

今回は酵素サプリを飲んでも痩せない理由や、さらに酵素サプリ摂取による危険性についてご説明いたします。

そもそも酵素とは

酵素とは食物の消化や物質の合成など、生体内のあらゆるところで起こっている化学反応の触媒(仲立ち)をしている物質で、タンパク質の1種です。

化学反応が起きるためには多くの場合、大きなエネルギーが必要になります。このエネルギーのことを「活性化エネルギー」というのですが、酵素はこの必要になる活性化エネルギーを低くして、生体内の化学反応がスムーズに行われるようにする役割を果たしています。

例えば食事で食べたものに含まれるたんぱく質は、胃から分泌される「ペプシン」という消化酵素によって分解されます。

例えば体に貯蓄されているブドウ糖(グルコース)は、「ヘキソキナーゼ」という酵素によって「グルコース-6-リン酸」という物質に代謝され、その後も様々な酵素によって代謝されていき、最終的にエネルギー物質に変換されます。

ガスバーナーで加熱したフラスコとは違い、私達の体温(37℃)でもこうした化学反応が円滑に進むのは酵素があるおかげであり、したがって酵素自体は私達の体にはなくてはならない物質です。

酵素サプリで痩せる(とされている)理由

スムージーで痩せる理由は?

いわゆる「酵素ダイエット」では、酵素で痩せるメカニズムについて次のように説明しています。

  1. 人間には一生で使うことのできる「潜在酵素」があり、その量は限られている
  2. 体内酵素は20代をピークにどんどん減少していき、40代に入ると一気に激減する
  3. 体内酵素が減ると代謝が悪くなり、肥満や肌荒れ・免疫力の低下などを引き起こす
  4. そこで体外から酵素を摂取して代謝を上げる必要がある
  5. 酵素は熱に弱いという特徴があるため、生の野菜や果物、酵素サプリで補うとよい
  6. 特に酵素サプリなら百種類以上の食物酵素が手軽に補える

表現はメーカーによって少し異なる場合がありますが、おおよそこのような理由になっています。

また酵素ドリンクはしばしば、断食を組み合わせた「ファスティングダイエット」というダイエット方法が推奨されています。この方法では一定の期間酵素サプリ・ドリンク以外は摂取せず体内環境をお休みさせてることで、食べ物の消化で使ってしまう潜在酵素の温存、毒素を出すことができるとして推奨されています。

このように書かれているのを見ると、本当に酵素サプリで痩せられるかのように思えてしまいますが、この理論には様々な欠陥があります。

酵素サプリはダイエット効果なしの理由

酵素サプリでは痩せない理由

酵素サプリで痩せられない理由には、次の4つが挙げられます

①酵素は体内で作れる

もともと酵素ダイエットの起源は、アメリカのエドワード・ハウエルという方が提唱した「酵素栄養学」になるのですが、一生に作れる酵素の量は決まっているわけではなく、「潜在酵素」という物質が発見されたこともありません。

酵素は確かに生きるために必要不可欠なものですが、そんな大切な酵素ですから必要なときに必要なだけ体内で合成することができます。

②酵素を摂取しても分解される

先ほどもご説明しましたように酵素はたんぱく質です。

たんぱく質ということは、食べ物から摂取しても、胃や小腸での消化でアミノ酸やペプチドに分解されて活性を失ってしまいます。口から摂取した酵素が分解されずに、活性を失わずにそのまま生体に作用する可能性は非常に低いといえるでしょう。

③酵素は特定の環境でしか作用しない

また酵素には特定の環境でしか活性化しない「至適pH」や「至適温度」が存在し、特定の物質の反応だけ触媒する「基質特異性」という特性もあります。

仮に酵素を分解されずにそのまま体内に取り込めたとしても、その体内のあらゆる酵素を食物酵素で代用することはできないのです。

例えばたんぱく質の消化酵素であるペプシンであれば、強酸性である胃酸の中ではじめて活性化します。なので食物酵素が胃液の代わりになったり腸液の代わりになったりすることはありません。

④生食はむしろ消化に悪い

生の肉と焼いた肉ではどちらが消化によいでしょうか?焼いた肉の方がいいに決まってますよね。生肉ばかり食べていたらお腹を壊してしまいます。

これは野菜においても同じです。生の状態よりも加熱調理をした方が消化が良くなり、胃や腸に負担をかけません。ヒトの祖先が長生きできるようになったのも、火を使って加熱して様々な食べ物を効率よく消化できるようになったからです。

酵素ダイエットにおいては「加熱したものばかり食べると体の消化管は消化酵素を出して疲れるため、酵素を含む生野菜のジュースや酵素ドリンク・スムージーで体を休めよう」と言われていますが、これは全く逆なのです。脂っこい食事を控えるなら胃腸は休まりますが。

ファスティングはリバウンドしやすい

リバウンドしてしまった女性

摂取した酵素は作用しないとなると、酵素ドリンクは(ビタミンなどが添加されていなければ)ただの不味いジュースのようなものです。

ファスティングダイエットについても潜在酵素の温存やデトックス(?)で痩せているわけではなく、ただ単に何も食べていないから痩せているだけなので、ダイエットのしかたとして全くおすすめできません。

代謝を落とさないためには運動もしながら適量の栄養摂取が必要ですが、食事をとらなかったら筋肉量の減少は避けられず、代謝も悪くなってしまいます。一時的には痩せられたとしても、食事を戻したらすぐにリバウンドするでしょう。

丸一日の断食とまではいかなくとも、朝食抜きや夕食抜きなど食事回数を減らすことは、次の食事で急激な血糖値の上昇やドカ食いにつながり、太りやすい体質になってしまいます。

ダイエット中であっても、食事は3食とることが大切です。

酵素サプリには健康被害が多い

酵素サプリは下痢などの副作用を引き起こす

酵素サプリや市販のスムージーには「百種類以上の食物酵素を配合!」と謳って、様々な野菜・ハーブの抽出エキスが使われていますが、様々な食品が使われているだけに健康被害も多いです。

国民生活センターが2016年8月に公表した「PIO-NETにみる危害・危険情報の概要」によると、健康食品関連で寄せられた健康被害のうち、商品ジャンル別では「酵素食品」が最も多いとしています。

報告では「生酵素の健康食品をお試しで購入したが、体に合わなかったのか下痢をしてしまった。内科医に行くと飲むのをやめるように言われた」などといった連絡が消費者からされているようです。

酵素サプリの原材料には普段の食事でとらないようなハーブも多く使われているため、ハーブに含まれる何らかの成分が作用したのか、アレルギーを起こしたのかもしれません。加熱処理していない「生酵素」であることをアピールしている商品なら、なおさら危険性が疑われます。

使われているハーブにどんな成分が含まれているか分かりませんので、スポーツ選手の場合はドーピング検査に引っかかる可能性も否定できません。酵素サプリや「酵素エキス配合」といった表記のされている加工食品は避けるようにして下さい。

具体的に何の酵素がどう作用するの?

いかがでしたでしょうか。酵素には減量効果がないことや、健康にとってよくない可能性もあることはお分かり頂けたと思います。

酵素のメカニズムは非常にもっともらしく書かれてありますし、大手の通販メーカーが宣伝していたりするとつい信用して買いたくなってしまうかもしれません。

しかし健康食品とは法律的な分類は「食品」であるため、効果がない成分でも「効果がある」とさえ謳わなければ法律に触れず普通な食品として販売できてしまうものなのです。

そもそも「酵素」とは化学反応を触媒するたんぱく質の総称なので、特定の物質名ではありません。

本当に酵素サプリに効果があるのであれば、その酵素サプリには具体的にどんな物質の酵素が入っていて、何の消化・代謝を助けるのかという説明があってもよいのですが、そうした説明はどのメーカーにも見られません。

これでは何らかの有効性があると言うことは難しいです。

まとめ

  • 酵素は生体内の消化・代謝の化学反応は触媒するたんぱく質の1種である。
  • 酵素は体内で合成できるため体外から摂取する必要はなく、摂取しても胃腸の消化酵素で分解されてしまう。
  • 仮に摂取した酵素が消化されなかったとしても、酵素は特定の環境でしか活性化しないため、体内のあらゆる酵素を食物酵素で代用することはできない
  • ヒトは加熱した食べ物の方が消化しやすいので、生酵素サプリや生野菜ジュースはむしろ消化に悪い
  • ファスティングはリバウンドしやすいので、食事は3食必ず食べる方がよい
  • 酵素食品は健康食品の中で最も健康被害が多い

参考文献

林淳三:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
木元幸一・後藤潔 編:「生化学」.建帛社,2009.
国民生活センター:「2015年度のPIO-NETにみる危害・危険情報の概要」 http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20160818_3.html

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