「アルギニンで身長が伸びる」という話は本当なのでしょうか?
アルギニンを補給できるサプリなどの健康食品もあるため、効果が期待できるのであれば、取り入れたいと思う方も多いはずです。
今回はアルギニンで身長が伸びるのかどうか、また身長を伸ばしたいときにまず行いたいことについて、管理栄養士が解説します。
目次
そもそもアルギニンとは?
アルギニンとは、タンパク質を構成するアミノ酸のひとつです。
小児において必要な量を体内で合成できないため条件付き必須アミノ酸ともいわれ、食べ物から補給する必要があります。
アルギニンは血流の促進やエネルギー代謝に関わるはたらきなどが知られていますが、体内で成長ホルモンの分泌に関わっていることも知られています。
<アルギニンのはたらき>
(1)血管の拡張・血流の促進
体内の一酸化窒素(NO)産生を高める役割を持ち、血流をよくするはたらきがあります。このことから滋養強壮サプリ・エナジードリンクなどにもよく配合されています。
(2)エネルギー代謝
血流の促進に加えて、エネルギー物質(クレアチンリン酸)の代謝にも関わっており、体力アップや疲労回復にもよいのではないかと研究されています。
(3)成長ホルモンの分泌に関与
アルギニンは体内で成長ホルモンの分泌に関わっており、疲労回復などの効果が研究されています。
実際に、成長ホルモンが分泌されているかどうかを確認する刺激試験では、アルギニンが薬として用いられることもあるほどです。
アルギニンが成長ホルモンの分泌を増やすメカニズムははっきりとわかっていないのですが、代謝産物である一酸化窒素の働きが関わっていると考えられています。
身長が伸びる際には成長ホルモンの分泌が欠かせないため、アルギニンを摂り成長ホルモンの分泌を増やすことで「身長が伸びるのでは?」といわれることがあります。
アルギニンで身長が伸びるのは嘘?
成長ホルモンの分泌に関わっているアルギニンですが、身長が伸びるかどうかについて現時点ではサプリメントとして摂取した場合に子供の成長が促進されたという学問的なデータが、信頼できる学術雑誌に報告されたことはありません。
またアルギニンサプリの効果がないと考えられる理由として、日本小児分泌学会では下記2つの理由があげられています。
サプリメントでは十分な量を補給できない
アルギニンが成長ホルモン分泌刺激試験に使われることもありますが、その量は体重当たり0.5gと、たくさんの量が投与されます。例えば体重30kgの場合は、アルギニンが15gとなる計算です。
一方で、サプリメントのアルギニン含有量は0.2~2gほどであり、分泌刺激試験の10分の1ほどの量となります。
また分泌刺激試験は点滴で血管内に直接投与されるのに対し、サプリメントは口から摂取するため、すべて吸収されるとは限りません。
このことから、サプリメントでは成長ホルモンの分泌が促進されるほど血中アルギニン濃度を上昇させるのは難しいと考えられるため、身長が伸びる効果は期待できない、というわけです。
薬で成長ホルモン分泌を促進するだけでは身長は伸びない
薬で成長ホルモン分泌を促進した場合に、本当に身長が伸びるのかどうか調査した研究があります。(※1)
研究では、身長が低い子供に対し「成長ホルモンの分泌刺激作用を持つ薬を高用量投与するグループ」「低用量投与するグループ」「偽薬(プラセボ)を投与するグループ」の3つに分け、1年間の成長を調査しています。
1年後、平均成長率を比較しましたが、3グループともに差がなかった結果となりました。
つまり、薬によって成長ホルモンの分泌が増えても、身長の伸びに影響しなかったことがわかったのです。
このことから、アルギニンで成長ホルモン分泌を促進できたとしても「もともとの成長率以上に身長が伸びるとは考えにくい」ということがいえます。
アルギニンサプリメントを摂る必要はない?
アルギニンを摂っても身長が伸びるとは考えにくいことがわかりましたが、それではやはりアルギニン入りのサプリメントをとる必要はないのでしょうか?
答えはその通りで「サプリメントをとる必要性は低い」です。
身長を伸ばしたいなら、アルギニンという一つのアミノ酸だけを補給するのではなく、食べ物から良質なタンパク質を摂ることが大切です。
特に肉、魚、卵などの動物性食品に含まれるタンパク質は、アルギニンだけでなく必須アミノ酸をバランスよく含んでおり、体内で効率的に体づくりに使われます。
さらにバランスのよい食事を心がけることで、身長が伸びるために必要なエネルギー、カルシウム、亜鉛、ビタミンDなどの栄養素も補給できます。
サプリメントでなく、まずはバランスのよい食事を心がけ、これらの栄養素が不足しないようにしましょう。
身長を伸ばすには何が大事?
身長を伸ばすには、先ほど伝えたとおり食事が大切ですが、睡眠や運動もポイントです。
身長を伸ばしたいときにまず行いたい3つのポイントについて、さらに詳しく解説します。
バランスのよい食事をとる
身長を伸ばすためには下記のような栄養素が必要であるため、バランスのよい食事を心がけることが大切です。
特に関わりの強い栄養素は下記があります。
【タンパク質】
細胞、筋肉、成長ホルモンの材料になる
…卵、魚、肉、大豆製品、牛乳、乳製品など
【エネルギー】
成長する際のエネルギー源となる
…米・パンなどの穀類、卵・魚・肉・豆などのタンパク源など
【カルシウム】
成長した骨を固める
…牛乳、ヨーグルト、チーズ、小魚、大豆製品、緑黄色野菜など
【ビタミンD】
カルシウムの吸収を助ける
…きくらげ、しいたけ、舞茸、鮭、いわし、かつお、しらす干し、卵など
【亜鉛】
タンパク質やDNAの合成に関わる
…牛肉、レバー、納豆、豆腐、卵、ナッツ類、牡蠣、ホタテなど
毎食これらの食べ物を意識して取り入れ、不足しないようにしましょう。
詳しくは「【医師監修】子供の身長を伸ばす食事に必要な7つの栄養素」で解説しているため、ぜひご参照ください。
睡眠を十分にとる
睡眠を十分にとることも、身長を伸ばすために大切なことです。
「寝る子は育つ」という言葉のとおり、成長ホルモンは睡眠中に分泌されます。
子どもの睡眠時間の目安は、米国国立睡眠財団(NSF)によると、下記が理想といわれています。(※2)
- 幼稚園児(3~5歳):10~13時間
- 小学生(6~13歳):9~11時間
- 中高生(14~17歳):8~10時間
日本の子供の睡眠時間は短い傾向があることがわかっているため、起床時間から逆算して就寝時間を決め、十分な睡眠が取れるよう工夫してみましょう。
また成長ホルモンは深い眠りの際に多く分泌されます。
寝る前のスマートフォンやテレビは睡眠の質を低下させてしまうため、控えるようにしましょう。
適度な運動を行う
適度な運動により骨に刺激を与えることも、身長が伸びるために必要です。
平日は外で体を動かすことが多いかもしれませんが、休日は運動量が足りない場合もあります。
特に走ったり跳んだりする運動が骨に刺激を与えられるといわれています。
小さな子供は遊びの中に運動を取り入れる方法もOKです。意識して取り組んでみましょう。
身長を伸ばすならアルギニンでなくさまざまな栄養を摂ろう
アルギニンで身長が伸びるという話は、現時点では効果が期待できないことをお伝えしました。
身長を伸ばすには、サプリメントで単一の栄養素を摂るよりは、バランスのよい食事や睡眠、運動が大切です。
身長の伸びに悩んでいる方は、取り組めるところがないかぜひ参考にしてみてください。
参考文献
(※1)Toshiaki Tanaka,ukihiro Hasegawa et ai.,Increased Secretion of Endogenous GH after Treatment with an Intranasal GH-releasing Peptide-2 Spray Does Not Promote Growth in Short Children with GH Deficiency,Clin Pediatr Endocrinol. 2014 Oct; 23(4): 107–114.
(※2)Max Hirshkowitz,Kaitlyn Whiton et al.,National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary,Sleep Health Volume 1, Issue 1, March 2015, Pages 40-43
一般社団法人日本小児内分泌学会「「身長を伸ばす効果がある」と宣伝されているサプリメント等に関する学会の見解(2013年3月29日公表)」
文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」