この記事は第三者の監修を受けています。
川本徹 先生(内科・整形外科・皮膚科消化器内科・消化器外科・大腸肛門外科)
「みなと芝クリニック」院長。
東邦大学医学部医学科客員講師。東京女子医科大学非常勤講師。1987年、筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学消化器外科講師、米国テキサス大学臨床腫瘍科客員講師を務めた後、2010年、東京都港区にて「みなと芝クリニック」を開業。”外科系内科医”を自称し、予防医学の観点から、病気の早期診断・予防に全力を傾けている。 【メディア出演】「林修の今でしょ!講座」「くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」「林先生が驚く初耳学!」「Dr.ジャッジ」など 【著書】「その不調、背中ストレッチが解決します。」
こんにちは!管理栄養士の盛岡です。
スポーツをしている子供を持つ親にとって、多くの方が気になるのが身長の伸び。多くのスポーツでは体が大きく身長が高い方が有利な場合が多いので、自分の子供が周りより小さかったりすると心配になるかと思います。
身長の高さというのは遺伝の影響も大きいことがよく知られていますが、遺伝が全てではありません。睡眠や生活週間、食習慣といった様々な要因が影響を与えます。
せっかく身長が伸びる可能性があるのに、食習慣などによってそれを妨げてしまわないように、しっかりサポートすることが大切です。
では子供に健康で大きく成長してもらうためには、食事ではどんな点に気をつければよいのでしょうか。今後数回に分けて、「身長を伸ばすための食事」について解説していきたいと思います。
今回は身長が伸びるしくみと、身長を伸ばすために必要な”栄養素”について解説いたします。
目次
身長を伸ばす食事とは
身長が伸びるしくみ
子供の身長が伸びるというのは、実際のところ骨が伸びているということになります。
人の体にはおよそ200個の骨があり、子供のうちは1個の骨の両端に「骨端線」という部分があります。
骨端線は成長軟骨帯(成長板)と呼ばれる、身長が伸びる子供特有の軟骨組織に相当します。ここで軟骨内骨化と呼ばれる、軟骨にカルシウムが沈着する現象(骨化)がおこり骨は伸びていきます。
大人になると骨端線の部分の軟骨は骨に置き換わってなくなるため、身長が止まります。
この骨の成長に大きく関わっているのが成長ホルモンです。成長ホルモンは骨を直接伸ばすわけではありませんが、肝臓で「ソマトメジンC」というホルモンをつくるよう促します。そしてソマトメジンCが骨の骨端線に働きかけることで成長を促していくのです。
成長には様々な栄養素が関わっている
骨端線が伸びる時期に十分に成長を促すにあたって、「これさえとれば必ず背が伸びる」といったような魔法の栄養素はありません。
体の成長には様々な栄養素が関わっているため、まずは朝食をしっかりとり、肉も魚も野菜もまんべんなく取り入れた栄養バランスのいい食事にすることが基本になります。
特に、以下の栄養素は身長を伸ばす上で重要です。
- タンパク質
- ビタミンC
- 亜鉛
- カルシウム
- マグネシウム
- ビタミンD
- ビタミンK
大きく分類するとタンパク質・ビタミンC・亜鉛は骨を「伸ばす」ために必要な栄養素で、カルシウム・マグネシウム・ビタミンD・ビタミンKは伸びた骨を「強くする(固める)」ために必要な栄養素になります。
ではそれぞれの栄養素のはたらきについて詳しくみていきましょう。
身長を伸ばす栄養素
タンパク質
身長を伸ばすために最も重要な栄養素が、肉や魚・大豆などに豊富に含まれているタンパク質。
骨といえばカルシウムというイメージですが、骨にはカルシウムなどのミネラルだけでなくコラーゲンも多く含まれており、ビルに例えれば鉄筋のようにして骨格を支えています。
タンパク質は骨や骨端線の軟骨に含まれるコラーゲンの材料となり、骨を伸ばし大きくするはたらきがあります。またタンパク質に含まれるアミノ酸の一種であるトリプトファンは、深い睡眠につながる重要な成分で、成長ホルモンの分泌に間接的に関わっています。
また骨の内部にあるコラーゲン繊維によって、骨に硬さだけでなく”しなり”が生まれます。このしなりがあることでクッションのようにして骨を衝撃から守ることができるため、スポーツ時の大きなケガを予防することにも役立ちます。
激しい運動をしている場合はより多く必要に
スポーツで激しい運動をしている場合には、体力をつけたり練習の疲労を回復させたりするために、多くのタンパク質が使われます。
アスリートの体づくりに必要な体重1kgあたりのタンパク質量は、一般の人と比べて1.5~2倍ともいわれています。
関連記事:アスリートに必要なタンパク質の摂取量 ›
子供のころは筋肉を肥大させるための筋力トレーニングは基本的に行いませんし、練習も週に2~3回程度であれば2倍も必要ないかと思います。ただ運動量が多いほどタンパク質も多く必要になるということは覚えておくとよいでしょう。
ビタミンC
野菜や果物に多く含まれているビタミンCは、体内におけるコラーゲンの生成に必用な栄養素。
骨の材料がコラーゲンときくと「じゃあサプリで直接コラーゲンをとればいいのでは?」と思うかもしれませんが、口から摂取したコラーゲンはそのままの形では吸収されず、消化の過程で分解されます。
大切なのはタンパク質から分解されてできたアミノ酸をもとに、体内でコラーゲンをつくること。
コラーゲンにはグリシンやヒドロキシプロリンといった様々なアミノ酸からできていますが、ビタミンCはこのヒドロキシプロリンの生合成に関わっています。
したがってビタミンCはコラーゲンの生成に不可欠であり、ビタミンCの不足は間接的に身長の伸びに悪影響を与えることになります。
亜鉛
亜鉛は人間の体にごく少量必用なミネラルですが、体内酵素の働きを助け、成長ホルモンの分泌を促すはたらきがあります。またタンパク質(アミノ酸)の吸収を助ける効果もあります。
不足すると成長ホルモンがうまくはたらかなくなるため、身長を伸ばすためには重要です。亜鉛の欠乏は味覚障害にもつながり、食欲不振の原因にもなってしまいますので注意しましょう。
亜鉛は貝類や牛肉、レバー、大豆などの食品に多く含まれています。
骨をつくる栄養素
カルシウム
丈夫な強い骨をつくる上で欠かせないのが、乳製品や野菜などに含まれているカルシウム。タンパク質はビルに例えれば鉄筋といいましたが、カルシウムの場合はそのまわりを固めるコンクリートといえます。
カルシウムは直接骨を伸ばすわけではありませんが、鉄筋の部分(コラーゲン)だけが伸びてもビル(骨)はできません。
カルシウムの摂取量が不十分であれば、本来伸びるはずの身長が阻害されて伸びなくなってしまいます。もし、1日のカルシウム摂取量が400mg以下と非常に少ない場合、骨の発育と健康に有害となることが報告されています(1)。
特に身長が伸びる成長期には非常に多くのカルシウムが必要となり、小学生から高校生までは成人と同じかそれ以上の摂取量が推奨されています。
カルシウム推奨量(mg/日) | ||
年齢 | 男 | 女 |
6~7歳 | 600 | 550 |
8~9歳 | 650 | 750 |
10~11歳 | 700 | 750 |
12~14歳 | 1,000 | 800 |
15~29歳 | 800 | 650 |
30~49歳 | 750 | 650 |
日本人の食事摂取基準(2020年版)
しかし現状では日本人のカルシウム摂取量は伸び悩んでおり、厚生労働省の調査によると7~14歳の平均摂取量は男子676mg・女子594mgと、推奨量に比べ不足しています(2)。
カルシウムは運動時の汗で失われてしまう分もあるため、スポーツをしている子供はより意識してとる必要があります。
カルシウム源としては牛乳がもっとも手軽な食品ですが、乳製品が苦手な場合には大豆製品や緑黄色野菜、小魚などを積極的にメニューに入れるようにして下さい。
またタンパク質とカルシウムの両方がとれる栄養補助食品として、子供用のプロテイン(ジュニアプロテイン)というものもあります。様々な食品から栄養をとること基本ですが、栄養補助食品はビタミン・ミネラルがバランスよく含まれているため、必要に応じて適宜活用するのもよいでしょう。
関連記事:ジュニアプロテインとは? >
マグネシウム
カルシウムとあわせて不足しがちなミネラルがマグネシウムです。
体内のマグネシウムのおよそ50~60%が骨に含まれており、カルシウムの吸収と代謝を調節し骨の健康を維持するはたらきがあります。
このマグネシウムとカルシウムのバランスは大切で、「日本人の食事摂取基準」における推奨量は以下のようになっています。
年齢 | カルシウム | マグネシウム |
8~9歳 | 650mg | 170mg |
10~11歳 | 700mg | 210mg |
12~14歳 | 1,000mg | 290mg |
※男子の推奨量
カルシウム:マグネシウムのバランスについては、大人は2:1の割合でとるのがよいとされていますが、子供においては「カルシウム:マグネシウム=3~4:1」の割合で摂取するのがよいです。
カルシウムだけを大量にとっていると、バランスが崩れかえってカルシウムが骨から溶け出してしまうという現象がおこることも。そのためカルシウムが正常にはたらくためには、マグネシウムも同時にしっかりとることが大切です。
マグネシウムはほうれん草や小松菜などの緑黄色野菜のほか、豆腐やひじき、ごまなどに多く含まれています。
ビタミンD
カルシウムというのはもともと非常に吸収のされにくい栄養素で、牛乳で40%、小魚33%、野菜19%という報告があります(3)。このカルシウムの腸管での吸収を高めるはたらきがあるのがビタミンD。
ビタミンDは欠乏すると子供では「くる病」、大人では「骨軟化症」という骨の異常が発症するほどであり、それだけ骨の形成に深く関わっている栄養素なのです。
ビタミンDは食品では魚介類や卵、きのこ類に多く含まれております。また日光を浴びることで皮膚にあるコレステロールの一種からビタミンDはつくられますので、外で遊ぶことも子供の成長にとって大切です。
関連記事:ビタミンDで身長は伸びる? >
ビタミンK
ビタミンKはあまり聞かない栄養素かもしれませんが、ビタミンKは骨形成に必要な”オステオカルシン”というタンパク質の完成に必要な補因子です。
カルシウムが骨に沈着するのを助けたり、骨からカルシウムが流出するのを防ぐ効果もあり、骨粗鬆症の治療薬にも使われています。
ビタミンKは野菜や海藻、納豆、チーズ、キムチなどの食べ物に多く含まれており、また体内の腸内細菌によって作られたりもします。
あまり不足することはありませんが、発熱や炎症を起こした際に、抗生物質などを服用し続けていると不足しがちになるので注意が必要です。
まとめ
身長を伸ばすには、様々な栄養素をとる必要があることがお分かり頂けたかと思います。次回の「身長を伸ばす食べ物・飲み物」では、どんな食べ物をどれくらい食べるのいいのかについてご説明したいと思います。
- 骨端線にある軟骨が伸びることで、骨が伸び、身長が伸びる
- 身長の伸びには様々な栄養素が関わっており、まずはバランスのよい食事をとることが基本となる
- タンパク質はコラーゲンの材料となり、骨を伸ばす
- 亜鉛は成長ホルモンの分泌に関わっている
- ビタミンCはコラーゲンの合成に関わっている
- カルシウムは伸びた骨を硬くして丈夫にする
- ビタミンDやビタミンKはカルシウムの吸収を助ける効果がある
- マグネシウムも骨の材料となっており、カルシウム:マグネシウム=2:1のバランスで摂取するのが理想
参考文献
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)
1) Lanou AJ et al.: Calcium, dairy products, and bone health in children and young adults: a reevaluation of the evidence. Pediatrics, 115: 736-743, 2005.
2) 厚生労働省:令和元年度国民健康・栄養調査
3) 一般社団法人Jミルク:牛乳・野菜・魚カルシウムの吸収率の比較試験
林淳三:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
佐藤隆一郎・長澤孝志 編:「わかりやすい食品機能栄養学」.三共出版,2010.
額田成:「[新版]子供の身長を伸ばすためにできること」.PHP研究所,2015.
田口素子・樋口満 編:「体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学」.市村出版,2014.