筋肉をつける食事

運動・トレーニング後の食事で筋肉の疲労回復効果は3倍も変わる

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こんにちは。管理栄養士の盛岡(@athtrition_jp)です。

最近では「糖質制限食」という食事法が人気ですが、運動後の食事にはたんぱく質だけでなく糖質の補給も必要なのをご存知ですか?

トレーニングを行う場合、過負荷(オーバーロード)を与えることが基本ですが、負荷を与えた体はエネルギーが不足し、筋肉の細胞は損傷した状態になっています。運動後に適切な栄養摂取と休養を組み込むことではじめて、疲労が回復し、損傷した筋肉はトレーニング前以上のものに再合成されます(これを「超回復」といいます)。

反対に、栄養摂取と休養が不十分な場合、疲労が蓄積する一方となり、パフォーマンスの低下が起こります。この状態が長期化すると筋肉の分解を引き起こしてしまいます。

運動後の適切な栄養補給は本格的なアスリートはもちろん、筋トレをしている方やマラソンをしている方などのアマチュアスポーツ選手にとっても重要です。

今回はせっかくのトレーニングを、単なるエネルギーの消耗に終わらせることなく最大限の効果にするための食事方法について、4つのポイントに分けて解説していきます。

①トレーニング後の糖質摂取

筋肉の疲労回復には糖質補給も大切

スポーツ選手は筋肉の主成分であるたんぱく質を重視しがちですが、スポーツ選手にとって糖質の摂取は、パフォーマンスの向上には欠かすことのできないものです。

糖質の筋肉合成メカニズム

筋肉には「筋グリコーゲン」という糖質の貯蔵庫があり、筋肉のエネルギーが格納されています。トレーニングの後は、この筋グリコーゲンが減少してしまい、疲労感の原因となります。低糖質食を続けていると、よりこの傾向が強くなります。

さらに筋グリコーゲンが少なくなると、体は脂肪と筋肉を分解することで、枯渇している筋グリコーゲンを回復させようとします。つまり、運動後に糖質をとらないことは、筋肉の分解につながってしまうのです。したがって、適切に糖質を摂取することは、疲労感を軽減し、筋肉の分解を防ぐためにはとても重要なのです。

また、糖質を補給すると上昇した血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが分泌されますが、このインスリンは血糖値を下げるだけでなく筋肉の合成を促進するという役割もあります。

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上のグラフ(1)は糖質を摂取させた群と摂取させなかった群の、血中尿素窒素量の比較をしているものです。たんぱく質は分子中に尿素を含んでおり、分解されると血液中の尿素濃度が増加します。糖質摂取群の血中尿素窒素量はほぼ一定であるのに対し、糖質摂取非摂取群はどんどん濃度が濃くなっています。このことからも、運動前に糖質を摂取しておかないことや、運動後すぐに糖質を摂取しないことは、筋肉の分解を招いてしまうということが分かります。

どんな種類の糖質がいいのか

一口に「糖質」といっても様々な種類があります。例えばお米に含まれているデンプン、お菓子に入っている砂糖、果物に入っている果糖などがあります。同じ量・同じタイミングで補給した場合、よりGI値の高い糖質の方が筋グリコーゲンの回復が早いという実験結果があります。

GI値とは

GI値とは、グリセミック・インデックス(Glycemic Index)の略で、その食品が体内で糖に変わり血糖値が上昇するスピードを計ったもの。 ブドウ糖を摂取した時の血糖値上昇率を100として、相対的に表されています。 このGI値が低ければ低いほど血糖値の上昇が遅くなり、インスリンの分泌も抑えられるのです。

高GI食品を摂取すると、インスリン分泌がより促進することにより、筋肉への血糖の取り込みが促進されると考えられています。身近な食品でいえば、GI値の低いバナナ(GI値55)よりも、GI値の高い白米のおにぎり(GI値81)の方が、運動直後の疲労回復や筋力アップに適しているといえるでしょう。

また、運動強度が高くなるにつれ、食べたものが胃から小腸へ移動する時間は長くなります。エネルギー補給の目的ではいかに早く糖質を体に供給するかが重要であり、吸収速度の観点では「マルトデキストリン」が優れています。マルトデキストリンは胃から小腸への移行速度が速く、よりGI値の高いブドウ糖と比べても運動後の回復効果が高いという実験結果があります。

マルトデキストリンが含まれている食品としては、「ウイダーインゼリー」や「ザバス エナジーメーカーゼリー」などのエネルギーゼリーが挙げられます。スポーツ栄養の現場的には、より速い回復が要求されるような場面では、マルトデキストリンが入っているエネルギーゼリーやドリンクなどを用いるとよいでしょう。

運動直後の糖質摂取量

おにぎり2個

 

国際オリンピック委員会(IOC)の報告おいては、運動直後の目標摂取量は「約1g/kg体重/日」とされています。もちろん競技や個人差はありますが、食品に換算すればおにぎり1~2個、エネルギーゼリー1~2個くらいの量を目安にしましょう。

なお、糖質は多く摂れば摂るほど疲労回復効果が高まるわけではありません。カロリーをとり過ぎる恐れもありますので、適度な摂取を心がけましょう。自分にとって適切な量はどれくらいか、疲労感を見ながら何回か試してみることをおすすめします。

②トレーニング後のたんぱく質摂取

筋肉の材料となるたんぱく質

筋肉をつける栄養素といえばたんぱく質ですね。たんぱく質は筋肉を作る材料となる栄養素で、そのほか骨やコラーゲン、免疫体、酸素を運ぶヘモグロビンなど様々なものに使われています。

トレーニング後は体内で筋肉の合成が行われますが、同時に筋肉の分解が進んでいます。このときにたんぱく質を摂取しないと、筋肉の分解ばかりが進み、十分な筋肉の合成が行われません。

筋肉の分解速度と合成速度

上のグラフ(2)(3)は運動後にアミノ酸や糖質を摂取させることで、筋肉の合成にどのような違いがでるかを比較した実験結果を表したものです。空腹時よりも運動3時間後はたんぱく質の合成が進んでいますが、分解速度に追いついていません。反対に、アミノ酸(たんぱく質)を摂取すれば、分解を上回る速度でたんぱく質が合成されています。

さらに、アミノ酸と一緒に糖質も摂取している群は、筋肉の合成速度はより高まっています。何も摂取しなかった群と比べると合成速度の差は約3倍もあることが分かり、たんぱく質と糖質の同時摂取がトレーニング効果を最も高められるといえるでしょう。

どんな種類のたんぱく質がいいのか

筋肉をつけるためには良質なたんぱく質の摂取が必要になります。では「良質なたんぱく質」とはどのようなものになるのでしょうか。

たんぱく質の質を評価する指標としては、「アミノ酸スコア」というものがあります。これは食品中に含まれる「必須アミノ酸」(体内で合成できないため、食事から摂取する必要のあるアミノ酸)の充足率を表している指標で、最大値は100になります。

このアミノ酸スコアが100のものが「良質なたんぱく質」にあたり、肉や魚・卵・乳製品・大豆製品がこれに該当します。市販のプロテインも乳成分や大豆から作られているものがほとんどですので、良質なたんぱく質と言えます。一方で米やパン、野菜に含まれるたんぱく質はアミノ酸スコアが低く、良質なたんぱく質ではありません。

運動直後のたんぱく質の摂取量

必要なたんぱく質の量は選手の体格やトレーニング内容によって異なりますが、2010年のIOCのスポーツ栄養に関する報告では、運動後に15~25gの良質なたんぱく質やプロテインを摂取することで筋肉の合成を高めることが期待できるとされています。市販のプロテインでまかなう場合は、製品の裏面の食品表示を見て量を調節するとよいでしょう。

ただし、たんぱく質においてもたくさん摂取すればいいというものではありません。過剰になったたんぱく質は脂肪として蓄積されたり、体内のカルシウムの排出を促してしまうなどの悪影響もありますので注意が必要です。

③栄養補給のタイミング

運動直後の栄養補給が重要

運動直後のたんぱく質合成

こちらのグラフ(4)は運動後のたんぱく質の合成速度を調べたものです。運動の1~2時間の間にたんぱく質の合成が最も進み、その後も運動による合成作用は24~48時間持続していることが分かります。一方で、運動直後というのはグリコーゲンの枯渇や筋損傷から、たんぱく質の分解も最も進んでいるタイミングでもあります。

したがって、糖質とたんぱく質の補給は、運動後すぐに、できれば30分以内に行うようにしましょう。

ある程度まとまった量を一度にとる

プロテインの一括摂取と分割摂取

こちらのグラフ(5)はトレーニング後に25gのプロテインを一度に飲ませた群と、2.5gずつ10回に分けて飲ませた群の筋肉の合成速度を比較したものです。この実験では5時間の中での血中アミノ酸濃度は平均するとどちらの群もほぼ同じであったにもかかわらず、筋肉の合成速度は一括摂取の方が速くなっていました。

このことから運動後のたんぱく質補給は少しずつ摂取するよりも、ある程度まとまった量をとる方が、筋肉の合成をより高めることができると考えられます。

しかし、量は多ければ多いほどよいというものではなく、ある一定量を超えるとそれ以上効果が上がることはないようです。摂取量は個々の体格や運動量によって異なりますが、目安としては前述した15~25gの範囲で摂取するとよいでしょう。

④補給後は栄養バランスの良い食事を

アスリートの食事の基本形

運動直後の補給をタイミングよく行い、リカバリーを効率よく始めることができたら、その後の食事は主食、主菜、副菜、果物、牛乳・乳製品の揃ったバランスのよい食事をとるよう心がけましょう。

特に、ビタミンB群の栄養素は糖質・たんぱく質・脂質の代謝に関わっています。ビタミンB群は玄米のほか、動物性食品に多く含まれており、疲労回復に重要な役割を果たしますので、バテているときこそしっかり食べるようにしなければなりません。

また、今回は運動後の疲労回復や筋肉アップに焦点を当てて話をしましたが、コンディショニングや体づくりの観点からも、野菜や果物・海藻類からビタミン・ミネラルを十分にとることも欠かさないようにしましょう。

バランスのよい食事のとり方については「アスリート版食事バランスガイド」をご参照下さい。

まとめ

  • 疲労回復にはの糖質とたんぱく質、両方の摂取が不可欠
  • 特に糖質の摂取量が少ないと、パフォーマンスの低下を引き起こしてしまう
  • 運動後速やかな栄養補給を行うことで、疲労を抑え、筋肉の合成を効果的に起こすことができる
  • 主食、主菜、副菜、果物、牛乳・乳製品のバランスのとれた食事を摂ろう

参考文献

林淳三 編:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
文部科学省:食品成分表(2015年版).
田口素子・樋口満 編:「体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学」.市村出版,2014.
加藤秀夫・中坊幸弘・中村亜紀 編:「スポーツ・運動栄養学」.講談社,2012.
1) Poortmans JR: Protein metabolism. In: Poortmans JR (ed) Principles of Exercise Biochemistry. Kager: Basel, pp.164-193, 1988.
2) Tipton KD, et al.:Postexcercise net protein synthesis in human musle from orally administered amino acids. Am J Physiol, 276: E628-634,1999.
3) Rasmussen BB et al.: Anoral essential amino acid-carbohydrate supplement enhances muscle protein anabolism after resistance exercise. J Appl Physiol, 88:386-392,2000.
4) Phillips SM et al.: Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol,273:E99-107,1997.
5) West DW er al,: Rapid aminoacidemia enhances myofibrillar protein synthesis and anabolic intramuscular signaling responses after resistance exercise. Am J Clin Nutr,94:795-803,2011.

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