こんにちは。管理栄養士の盛岡です。
今回はスポーツとチョコレートの関係について話をします。
「チョコレートが健康にいい」といったことは、メーカーの後押しもあってか色々なメディアで報じられますが、スポーツにおいてどのように役立つのかについては今まであまり議論されていません。
そんな中、東京大学が運動後のチョコレート摂取による疲労回復効果ついて論文を今年発表しました。ここではその内容にも触れながら、アスリートのチョコレート活用方法について考えてみたいと思います。
目次
運動後のチョコレート効果
東京大学が発表しました運動後のチョコレート効果に関する研究は下記のものになります(1)。
運動後のホワイトチョコレートの摂取がマウスの摂食行動およびグリコーゲン回復に及ぼす影響 >
この研究ではマウスに30分間の運動をさせた後、角砂糖かホワイトチョコレートのいずれかを好きなだけ食べさせました。
すると角砂糖を食べたマウスに比べ、ホワイトチョコレートを食べたマウスの方が、4時間後の筋グリコーゲン濃度や血清インスリン濃度が有意に高い値を示したそうです(※筋グリコーゲンとは筋肉に蓄えられる糖の一種で、運動する際のエネルギー源となるものです。)
なおこの実験では角砂糖のグループもホワイトチョコのグループも好きなだけ自由に食べさせるようにしていますが、糖質の摂取量だけをみると差がなかったものの、食事量全体としてはホワイトチョコのグループの方が多かったようです。
そしてこれらことから以下のように結論付けています。
運動後のホワイトチョコレートの摂取は、糖質のみを摂取した場合に比べて食欲を低下させることなく、より多くのエネルギー補給を可能とし、さらにインスリン分泌を増強することで筋グリコーゲン回復を促進する可能性が示唆された。
平たく言えば「チョコレートを食べると、糖質だけとるよりも疲労が回復するかもしれないよ」ということです。とすると、運動後はおにぎりやエネルギーゼリーよりもチョコレートを食べた方がいいのでしょうか…?
チョコで疲労が回復しやすい理由
糖質の摂取量が両者に差がなかったにも関わらず、チョコを食べた群の方がよりエネルギーが回復している理由については、以下のように考察されています。
- チョコレートに多く含まれている脂質がドーパミンなどの脳内物質を分泌させ、食欲を増進させる
- 食欲の増進により全体の食事量が増え、糖質摂取量を減らすことなくたんぱく質や脂質も摂取できた
- 糖質だけでなくたんぱく質や脂質も同時にとることで、インスリンの分泌が促進される
- インスリン分泌の増強により、グリコーゲン合成酵素が活性化され、回復を促進した
チョコレートが高脂肪な食品なのはよく知られていますが、この脂質が食欲の増進やエネルギー摂取量の増加に影響したということになります。ダイエット中だったら逆に恐ろしい話ですね…
この研究はヒトではなくマウスを実験対象にしている点や、研究者としてカカオメーカーの役員も参加していることなどから信頼性はあまり高くありませんが、チョコに含まれる豊富な糖質がグリコーゲンの回復に役立つのは間違いありません。
一過性の運動直後に食事をとる場合、食事量は安静状態と比較して150~200kcal減少することが報告されています(2)(3)。
アスリートは運動後に食欲がなくなり、その後の試合や練習に必要なエネルギーを補給できないケースは多いため、そんなときの補給食には適しているかもしれません。今後さらに研究が進んでいくと面白いですね。
スポーツ前のエネルギー補給
今回取り上げた研究は運動後にチョコレートを食べた場合でしたが、運動前のエネルギー補給にもチョコレートは役立ちます。
すばやく吸収されエネルギーに
チョコレートに含まれる砂糖は、ごはんやパンのデンプンと比べるとすばやく吸収される糖質です。したがってトレーニングや試合の始まる1時間前くらいには、チョコレートを食べることですぐに運動のエネルギーとして活用できます。
ただ腹持ちのいいものではありませんので、試合前などは3~4時間前にごはんやうどんなどで糖質をしっかりとるよう心がけましょう。
集中力も上がる?
チョコレートには覚醒作用のあるカフェインやテオブロミンが含まれています。テオブロミンとはカカオに含まれている苦味成分で、カフェインと同様の生理作用を持つことが知られています。
ホワイトチョコレートにはあまり含まれていませんが、ダークチョコレートにはカフェインは28gあたり5~35mg程度含まれているそうです(4)。
コーヒーはコップ1杯でおよそ90mgなので、カフェイン量はそれと比べると少なく、利尿作用は少ないと考えられます。
1オンス(28g)あたりの含有量 | ||
種類 | カフェイン | テオブロミン |
ダーク チョコレート |
5~35 mg | 150~300 mg |
ホワイト チョコレート |
1~5 mg | 15~25 mg |
(※28g…チロルチョコ約4個分)
なおダークチョコレートであれば、抗酸化作用のあるカカオポリフェノールも多く含まれています。
食べ過ぎは危険
マラソンのスタート直前などに、エネルギー補給をしようとたくさん食べるのは注意が必要です。
運動開始45分前に75gのブドウ糖を摂取すると、インスリンが大量に分泌されて低血糖になる危険性があるという報告があります(5)。
チョコレート2~3粒だけですとなかなか起きないかもしれませんが、チョコレート入りの菓子パンのような高糖質の食べ物は気をつけましょう。
マラソンレース中の補給食には
フルマラソンを走る場合には、レース中に補給食をとる必要がありますので、糖質補給にチョコレートを活用するのもよいでしょう。
栄養補給のタイミングは1時間に1回程度、1度に食べる量は100~200kcalが目安です。キットカットだったら2本くらいでしょうか。
ただチョコレートは脂質も多く、この脂質は消化に時間がかかり胃腸の負担になるため、できれば補給食にはバナナやエネルギーゼリー・ようかんなど低脂肪なものがベストです。
最近ではウルトラマラソンやロードバイクなどの競技を中心に、脂質を中心としたエネルギー補給を行う「ケトン食」が注目されていますが、まだまだ科学的根拠の少ない領域です。
レース中のエイドにチョコパンやクロワッサンが置かれていることもありますが、過去にお腹が痛くなった経験のある方は避けた方がよいでしょう。このあたりは自分の体質と経験に合わせて考えるのが一番です。
まとめ
- 運動後のチョコレート摂取は、食欲を低下させることなくエネルギー補給ができ、疲労の回復に役立つかもしれない。
- チョコレートの糖質はすばやく吸収され、スポーツ前のエネルギー補給に役立つ。
- チョコレートに含まれているカフェインやテオブロミンには覚醒作用がある。
- マラソンなど競技中のエネルギー補給にも利用できるが、脂質が多いため注意。
参考文献
1) 近藤早希, 青山敏明, 他:運動後のホワイトチョコレートの摂取がマウスの摂食行動およびグリコーゲン回復に及ぼす影響, 日本スポーツ栄養研究誌, 11, 34-40 (2018)
2) Kojima, C., Ishibashi, A., Ebi, K., et al.: The Effect of a 20 km Run on Appetite Regulation in Long Distance Runners, Nutrients, 8, 672 (2016)
3) Ueda, S.Y., Yoshikawa, T., Katsura, Y., et al,: Comparable effects of moderate intensity exercise on changes in anorectic gut hormone levels and energy intake to high intensity exercise, J. Endocrinol., 203, 357-364 (2009)
4) 林光緒:ニコチン, カフェインと睡眠, 睡眠医療, 1(4), 61-67 (2007)
5) Burke LM et al.: Carbohydrate for training and competition. J Sports Sci. 29: S17-S27,2011.