スポーツ栄養学の基本

【管理栄養士監修】勝てないアスリートの原因は食事の野菜不足?

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アスリートに必要な副菜の摂取量

こんにちは!スポーツ栄養士の盛岡です。

強い体を作りたいと思って、筋肉の材料になる肉類やエネルギー源になるごはんを食べることばかりに意識が向いていませんか?

アスリート・スポーツ選手が強い体を作るには野菜はもちろん、海藻類・きのこ類・いも類・豆類に分類される食べ物もまんべんなく食べることが大切です。今回はアスリートにとっての野菜などの必要性と、1日に食べるべき摂取量についてご説明いたします。

アスリートの食事に野菜などが必要な理由

アスリートは風邪をひきやすい

アスリートが日々のトレーニングを全力で取り組んだり試合に100%の状態で臨むためには、万全のコンディションであることが前提となります。

適度な運動は免疫力を高める効果がありますが、毎日激しい運動をしているアスリートは、疲れがたまっているときに免疫力が低下しやすく、実は普通の人よりも風邪などで体調を崩しやすいのです。

そのため疲労回復に役立つビタミンB群や、免疫力アップに役立つビタミンA・ビタミンCを十分に摂取する必要があります。

強い骨を作らなければならない

アスリートは身長を伸ばして大きな体にするため、また骨折・疲労骨折などのケガを予防するために、強い骨を作ることがとても重要になります。

強い骨を作るのにはカルシウム・たんぱく質・ビタミンD・マグネシウムなどの栄養素が必要です。特に、カルシウムは汗によって多く排出されてしまいますので、アスリートは普通の人よりも倍近く多く摂取しなければなりません。

野菜や海藻などにはビタミン・ミネラルが豊富

このように、体調管理やケガの予防にはビタミン・ミネラルの十分な摂取が大切になります。そして、野菜や海藻などの食品には、コンディションを整えるために役立つ栄養素が、それぞれ以下のように含まれています。

野菜類・・・食物繊維、ビタミンA、ビタミンC、カルシウム、鉄 など

海藻類・・・カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウム など

いも類・・・糖質、食物繊維、ビタミンC、カリウム など

きのこ類・・・食物繊維、ビタミンD など

豆類・・・食物繊維、ビタミンB群、ビタミンC など

野菜ジュースで1日分の栄養がとれる?

野菜ジュースは野菜や果物の栄養を手軽にとることができ、市販品には「1日分の野菜を使用」と表記されている商品も多く販売されています。

野菜ジュースは野菜が苦手な人でも美味しくとれるので便利ではあるのですが、ビタミンが熱で壊れていたり、ミネラルや食物繊維が加工の段階で失われてしまっていたりします。決して「1日分の野菜の栄養素がとれる」というわけではありませんので注意が必要です。

また普段から食べ物をよく噛んで消化すること自体が、食事の満腹感を与えたり、強い消化器官をつくることにつながります。野菜ジュースはそれだけで十分に栄養素がとれるものとは考えずに、野菜不足を補助するためのものと考えるとよいでしょう。

どんな野菜ジュースを選ぶとよい?

果汁・野菜汁の割合をチェックする

一口に「野菜ジュース」といっても、野菜100%のものから果汁が混ざっているもの、水と砂糖が入っていて「嗜好飲料」に近いものまで様々です。

最も大切なポイントは野菜汁と果汁だけで作られているかどうかです。パッケージの「野菜汁◯%、果汁◯%」という表示をチェックして、合計が100%の商品を選ぶようにしましょう。

「果汁は入っていてもいいですか?」とよく聞かれますが、果物の栄養素もアスリートの体調管理には大切ですので、果汁は入っていても大丈夫です。野菜を食べる量が足りない方はビタミンAが豊富な野菜汁100%のジュースがいいですし、果物もとれていない方はビタミンCやポリフェノールも摂取できる果汁が混ざったジュースにしてもよいでしょう。

試合前は食物繊維の少ない野菜ジュースを

注意点として、試合前日や当日はあまりお腹がはらないように、食物繊維が少ない野菜ジュースを選ぶようにしましょう。食物繊維が1杯あたり1~2g程度なら大丈夫ですが、5gも6gも入っているものは避けた方が無難です。

※試合前でない場合は、逆に食物繊維の豊富な野菜ジュースの方がおすすめです!

アスリートに必要な野菜や海藻などの摂取量

アスリートに必要な野菜は350g以上

厚生労働省が推進する健康作り運動「健康日本21」では、健康増進の観点から1日350g以上の野菜を食べることが推奨されています。

しかし、350gとはあくまで一般の人の必要量です。アスリートは多くのビタミン・ミネラルを必要としますので、当然野菜もそれ以上の量を食べる必要があります。

食事バランスガイドを活用しよう

必要な摂取量を計算するために、トマトが何グラム、わかめが何グラムといったように1つ1つ食材ごとに量るのは非常に大変です。そこで必要な量を大まかに計算するために、厚生労働省と農林水産省が策定している「食事バランスガイド」が役に立ちます。

食事バランスガイドとは食事内容を主食・副菜・副菜・乳製品・果物の5つの料理区分に分類して、1日に必要な食事量として「何を」「どれだけ」食べたらよいかを、食品や料理単位で簡単に計算するためのツールです。

野菜類・海藻類・きのこ類・いも類・豆類の食品は、食事においてはサラダやおひたし、スープなどの「副菜」に分類される料理に多く含まれています。

食事バランスガイド

食事バランスガイドと各料理区分のアスリートにおける役割についてはこちら

この「どれだけ」の単位は、副菜では一定の食材の量を基準として「1つ」「2つ」という数え方をしています。例えば、ほうれん草のおひたしは小鉢1個分で副菜「1つ」と数え、一般的な成人男性は1日に5~6つ分の副菜が目安に定められています。つまり成人男性の場合はほうれん草のおひたしだけで換算すれば小鉢5~6個の副菜を食べる必要がある、ということになります。

このツールはスポーツ選手にも応用することができますので、まずは具体的な数え方についてご説明していきます。

副菜の量の数え方

主な副菜の数量(つ)は下記の写真のようになります。ざっくりとボリューム感で覚えましょう。詳細な食材の重量と料理区分の数量(つ)について知りたい方は、農林水産省の「SV早見表」をご参照下さい。

下記で記載する小鉢1個分や1皿分は、料理本などに載っているレシピの1人分の量と考えてもらえば、料理をする方はイメージしやすいでしょう。

煮物

基本的に小鉢1個分で副菜1つになります。

かぼちゃの煮物は副菜1つおひたしは副菜1つ

豆類は良質なたんぱく質を含んでいる大豆のみ例外的に「主菜」として数えますが、それ以外の豆類(枝豆や黒豆など)はメインディッシュにはなりませんので副菜として数えます。

アスリートに必要な主菜の量や数え方についてはこちら

黒豆の煮物は副菜1つひじきの煮物は副菜1つ

いも類のおかずはボリュームがありますので多めに数えます。肉じゃがはさらにお肉も多く入っていますので副菜2~3つ+主菜1つになります。

里芋の煮物は副菜2つ肉じゃがは副菜2つと主菜1つ

サラダ

ポテトサラダは副菜2つサラダは副菜1つ

炒め物・揚げ物

炒め物や揚げ物は油を使う分カロリーが高くなりますが、カロリーに関係なくボリュームに応じて数量(つ)を数えましょう。肉野菜炒めや酢豚などは肉+野菜の組み合わせになりますので、1皿でおおむね副菜2つ+主菜2つになります。

肉野菜炒めは1皿で副菜2つ

きんぴらごぼうは副菜1つ

コロッケはじゃがいもがメインなので1個で副菜2つです。なおメンチカツはひき肉がメインなので主菜に分類されます。

コロッケは副菜2つ

汁物

汁物は基本的に副菜1つです。ただし、具だくさんにすれば野菜がたくさん入りますので副菜2つと数えてもよいでしょう。

みそ汁は副菜1つコーンポタージュは副菜1つ

野菜ジュース

市販されている野菜ジュースは、副菜としては1つと数えるとよいでしょう。また、野菜や果物をミキサーで混ぜて手作りする場合には、栄養素が失われていないので2つ(あるいは野菜1つ+果物1つ)と数えてもよいでしょう。

市販の野菜ジュースは副菜1つ

競技別の副菜の摂取目安量

必要な副菜の量は競技種目によって異なります。1日の消費カロリーが多いほど、副菜も多く摂取しなければなりません。

下記は競技種ごとの副菜の目安量になります。1日のエネルギー量は体重ごとに記載していますが、細かく計算したい方は「競技別&5分でできるカロリー計算方法」のページを参考にして下さい。

※目安量は週に5日以上の練習をしている高校生以上の方を対象としています。
アマチュアスポーツ選手の目安量はこちらをご参照下さい。
小学生~中学生の目安量はこちらをご参照下さい。

瞬発系競技

野球、陸上短距離、陸上投てき(砲丸投げ、やり投げ、円盤投げ、ハンマー投げ)、陸上跳躍(走り幅跳び、高飛び)、体操、水泳距離、柔道、剣道、ボクシング、スピードスケート、ゴルフ、など

男性

体重(kg) エネルギー(kcal) 副菜量(つ)
51~60 2,800~3,200 7~8
61~70 3,200~3,600 7~8
71~80 3,600~4,000 7~8
81~90 4,000~4,400 8~9

女性

体重(kg) エネルギー(kcal) 副菜量(つ)
36~40 1,600~2,000 5~6
41~50 2,200~2,400 6~7
51~60 2,600~2,800 6~7
61~70 2,800~3,200 7~8
71~75 3,200~3,600 7~8

筋持久力系競技

サッカー、テニス、バレーボール、バスケットボール、卓球、バドミントン、陸上中距離、ケイリン、フィギュアスケート、ラグビー、アメフト、ホッケー、カヌー、など

男性

体重(kg) エネルギー(kcal) 副菜量(つ)
51~60 2,800~3,200 7~8
61~70 3,200~3,600 7~8
71~80 3,600~4,000 7~8
81~90 4,000~4,400 8~9

女性

体重(kg) エネルギー(kcal) 副菜量(つ)
36~40 1,600~2,000 5~6
41~50 2,000~2,400 6~7
51~60 2,400~2,800 6~7
61~70 2,800~3,200 7~8
71~75 3,200~3,600 7~8

持久力系競技

マラソン、ロードバイク、水泳長距離、トライアスロン、ボート、クロスカントリースキー、など

男性

体重(kg) エネルギー(kcal) 副菜量(つ)
51~55 3,200~3,600 6~7
56~63 3,600~4,000 6~7
64~70 4,000~4,400 7~8
71~78 4,400~4,800 7~8
79~85 4,800~5,200 8~9
86~90 5,200~5,600 8~9

女性

体重(kg) エネルギー(kcal) 副菜量(つ)
36~45 2,400~2,800 5~6
46~55 2,800~3,200 6~7
56~65 3,200~3,600 6~7
66~70 3,600~4,000 6~7
71~75 4,000~4,400 7~8

副菜を選ぶ際の注意点

食事バランスガイドは日常生活での実践のしやすさを重視しているため、副菜の中での緑黄色野菜の比率や、油の使用量など細かくは設定されていません。

だからといって、いも類ばかりを食べてよいわけではなく、また炒め物や揚げ物ばかり食べてよいわけではありません。

野菜類にはビタミンAやカリウム、海藻類にはカルシウムや鉄分、きのこ類には食物繊維、いも類には熱に強いビタミンCなどが含まれています。また、油はビタミンAなどの脂溶性ビタミンの吸収を高めたり体内のホルモンなどの材料になったりと大切な役割もある一方で、とり過ぎると脂肪分として体内に蓄積してしまいます。

細かく計算する必要はありませんが、色々な食材を色々な形(揚げ物・炒め物・煮物・蒸し物・生)で食べることによって、結果的に様々な栄養素をバランスよく摂取できることは覚えておくとよいでしょう。

まとめ

  • コンディショニングのために適切な量の副菜を食べてビタミン、ミネラル、食物繊維を補給しよう
  • 主な副菜の単位を覚えて、概算で自分に必要な副菜の量を把握しよう

参考文献

日本栄養士会 監修:「『食事バランスガイド』を活用した栄養教育・食育実践マニュアル」.第一出版,2011.
林淳三:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
加藤秀夫・中坊幸弘・中村亜紀 編:「スポーツ・運動栄養学」.講談社,2012.

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