こんにちは。スポーツ栄養士の盛岡です。
前回の「身長を伸ばす食べ物・飲み物」では、身長を伸ばすために役立つ栄養価の高い食べ物と飲み物についてご紹介いたしました。
大きく強い骨をつくるには栄養バランスのよい食事をとることが大切ですが、逆に成長の妨げとなる食事のとり方もあることはご存知でしょうか。
今回は身長が伸びない原因となる食事のとり方や注意点についてご説明いたします。
目次
身長が伸びない食事とは
身長を伸ばすには骨を伸ばす食事をとることが大切です。反対に、骨を伸ばすための栄養素が不足していたり、あるいはその栄養素の吸収が阻害されていたりする場合には、身長が伸びにくくなる可能性があります。
食事において身長が伸びない原因となるのは、主に以下のものが挙げられます。
原因①骨を伸ばす材料の不足
骨を伸ばすためには骨の両端にある「骨端線」の軟骨が伸びなければなりません。この骨端線の軟骨はコラーゲンからできているため、材料となるタンパク質などをとることが大切です。
同時に伸びた軟骨を固めて強くするためにカルシウム・マグネシウムなどのミネラルも必要になります。
これらの骨を伸ばし強くするための材料が不足していると、身長は伸びていきませんので、タンパク質やカルシウムはしっかりとるようにしましょう。
骨が伸びるメカニズムや骨を伸ばす栄養素については、詳しくは「身長を伸ばすために食事でとるべき栄養素」をご参照下さい。
原因②摂取エネルギー(カロリー)の不足
体を大きくしていくためにはたくさんのエネルギーが必要となります。摂取エネルギーが不足し消費エネルギーを下回る状態になると、十分な量のカルシウムを摂取していても、このカルシウムは有効に利用されず、エネルギー不足が骨に対してマイナスに作用します。
これはエネルギー不足により骨の代謝が促進され、骨をつくること(骨形成)以上に骨を分解すること(骨吸収)が進んでしまい骨量の減少を招いてしまうためです。
特にスポーツ選手の場合は運動習慣のない人と比べると1日の消費カロリーが1.5~2倍ほども多く、1食でも欠食してしまうと残りの食事で必要なエネルギー分をまかなうのは難しくなってしまいます。
子供の減量には注意
以前に体操をしている小学生の女の子を指導したことがありますが、体脂肪が増えることを気にしてお母さんが食事量を制限させていらっしゃいました。
摂取エネルギー不足が続いてしまうと摂食障害や無月経、さらには女性ホルモンの不足などから起因する骨粗鬆症といった重大な障害(これを「女性アスリートの三主徴」といいます)につながる可能性もあるため、減量には慎重になる必要があります。
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人間の主要なエネルギー源は炭水化物(糖質)です。子供の成長をビルに例えると、鉄筋がタンパク質、コンクリートがカルシウム、そしてそれらの材料を組み立てるためのエネルギーが炭水化物にあたります。大きく成長するためには、まずしっかりごはんを食べることを忘れてはなりません。
体脂肪が気になる場合には、砂糖の多いジュースやお菓子、高カロリーな揚げ物や外食が多くないかといった、基本的なところからまず見直してみて下さい。
子供が少食の場合には
少食で1回の食事ではあまりたくさん食べられない場合には、間食を取り入れて食事の回数を増やしてみるとよいでしょう。
間食といってもお菓子では栄養価が低いのであまりよくありません。子供にしっかり栄養をつけてもらうために、おにぎりやサンドイッチ、もう少し軽いものではバナナなどの果物、ヨーグルトが間食におすすめです。
おかずの好き嫌いが多い子供の場合、あまり偏食に気を使いすぎると食事量が減ってしまいます。多少栄養バランスが偏ってもボリュームを増やすことがまず大切です。
またごはんの時間にお腹がすくように、日中にしっかり運動することも大切です。
原因③タンパク質の摂りすぎ
先ほどはタンパク質をしっかりとることが大切とお伝えしましたが、反対にタンパク質の過剰摂取も骨に悪影響があります。タンパク質の過剰摂取は尿中のカルシウム排泄量を増やすため、骨密度低下の原因となるためです。
1日に必要なタンパク質量はおよそ体重(kg)×1.0gです。この量は激しい運動をしていない子供の場合、極端な食事制限をせず1日3食をきちんととっていれば、不足する心配はほとんどありません。
またスポーツ選手の場合は、運動量が多く筋肉量も多いことから体重(kg)×1.2~1.7gのタンパク質摂取がアメリカスポーツ医学会で推奨されている1)ものの、それ以上は多くとればとるほど良いわけではありません。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」にはタンパク質の上限量は設けられていませんが、あまりにも肉・魚料理に偏っていたり、例えば毎食のようにプロテインを飲んでいるといった極端な食事の場合には、内容を見直してみるとよいでしょう。
食べ物に含まれている具体的なタンパク質量については前回の記事をご参照下さい。
リンの摂りすぎで身長が伸びない?
リンはカルシウムと同様に骨や歯を構成しているミネラルで、体の中ではリン酸カルシウムとして存在しています。カルシウムの代謝と深く関わっているため、適切な量のリンを摂取することは大切です。
リンは様々な食品に広く分布しているので、摂取不足による欠乏症はほとんどみられませんが、リンはソーセージやベーコン、ハム、インスタントラーメン、練り物などの加工食品に多く含まれ、過剰摂取の方がよく心配されます。
過剰摂取になりますと腸管で不溶性のリン酸カルシウムをつくりやすく、カルシウムの吸収を抑制すると共に、食後の血清リン濃度の上昇により、血清カルシウムイオンの減少を引き起こすとされています2)。
ただこれらの反応が骨密度の低下につながるか否かについては、否定的な報告もあります3)。現在のところ、多量のリン摂取、あるいはリン摂取に比べてカルシウム摂取の少ない食事によって骨減少が起こるかどうかについて、ヒトでの研究は十分ではありません。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」には、リン摂取の上限量は子供については十分な研究報告がないため定められていません(成人には3,000mg/日が設定されています。)
そして平成28年の国民健康・栄養調査では、7~14歳のリン摂取量は男性で平均1,129 mg/日、女性で平均996mg/日となっています。ただこの調査では加工食品に添加されているリンの量は加算されていないため、実際のリン摂取量はこれよりは少し多い可能性があります。
何をどれだけ摂るとリンの過剰摂取になるかというのははっきりといえませんが、加工食品を多く利用している食生活で、リン摂取が気になる方は例えば以下のような工夫をしてみるとよいでしょう。
ボイルしてゆで汁は捨てる
ウインナーに多いリン酸は、ゆでると水に溶け出します。このときのゆで汁を捨てれば、摂取するリン酸を多少なりとも抑えることができます。
かまぼこなどの練り物は薄く切ってしゃぶしゃぶのようにお湯にさっとくぐらせるとよいでしょう。
麺を戻したお湯はスープに使わない
インスタントラーメンは麺をゆでた際のお湯をそのままスープに使うようにと作り方に書かれてあったりしますが、そのお湯は捨てて新しいお湯を注いでスープにすることで、麺に含まれているリン酸を減らせます。
またスーパーなどで売られているうどんの中には、食感をよくするためにリン酸塩を使っている場合がありますので、軽く洗い流してから使いましょう。
肥満だと身長が伸びない?
体脂肪が多く太っていると身長が伸びにくくなるといわれることがあります。理由としては
- 肥満は体を動かすことにエネルギーが使われてしまい、身長が伸びにくくなる
- 成長期に太りすぎると、身長が早く成熟し、身長の伸びる時期が短くなってしまう
- 肥満だと成長ホルモンの分泌が悪くなってしまう
といった点が挙げられていますが、本当に肥満だと身長が伸びにくくなるのかについては十分なデータがないように思います。
肥満には2種類あり、摂取カロリーが消費カロリーを上回ることに起因する「単純性肥満(原発性肥満)」と、何らかの病気が背景にある「二次性肥満(症候性肥満)」とがあります。
肥満の約95%はカロリー過多による単純性肥満であり、この場合は身長もしっかり伸びます。一方、何らかの病気によって肥満になっている二次性肥満では身長の伸びが悪かったり、極端な低身長だったりします。ただこの二次性肥満であっても病気がまず先にあり、「肥満によって低身長になる」という順番ではありません。
二次性肥満の場合には食事制限での減量よりも原因となっている病気を治すことが優先ですので、病院で精密検査を受けるようにしましょう。
まとめ
- 骨の材料となるタンパク質やカルシウムが不足していると、身長が伸びない原因になる
- 摂取エネルギー(カロリー)の不足は骨の分解を促してしまい、骨量の減少を招く
- 特に女性スポーツ選手は、食事制限による無月経や骨粗鬆症に注意が必要
- タンパク質の過剰摂取は、カルシウムの排出を促してしまう
- リンの過剰摂取で骨量の減少につながるかどうかは、現在のところ分からない
- 二次性肥満の場合は身長が伸びにくいため、病院で原因となっている病気の治療を受けるとよい
参考文献
清水俊明 編:「小児生活習慣病ハンドブック」.中外医学社,2012.
林淳三:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
田口素子・樋口満 編:「体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学」.市村出版,2014.
菱田明・佐々木敏 監修:「日本人の食事摂取基準(2015年版)」.第一出版,2014.
厚生労働省:平成28年度国民健康・栄養調査
1) Rodriguez NR et al.: American College of Sports Medicine position stand. Nutrition and athletic performance. Med Sci Sports Exerc, 41: 709-731, 2009.
2) Anderson JJB: Nutritional biochemistry of calcium and phosphorus. J Nutr Biochem 1991; 2: 300-9.
3) Zemel MB, Linkswiler HM: Calcium metabolism in the young adult make as affected by level and form of phosphorus intake and level of calcium intake. J Nutr 1981; 111: 315-24.