こんにちは。管理栄養士の盛岡です。
前回の「週5で練習するあなたが太る原因は?」ではアスリートが食べ過ぎになってしまう原因と、減量するためには規則正しい食生活の上で摂取カロリー(摂取エネルギー)量を制限することが大切だとお伝えしました。
今回は食事制限をするにあたっての方法や注意点について、より詳しく解説していきます。
目次
無理なダイエットの危険性
欠食や極端なカロリー制限による弊害
アスリートの中には朝食や夕食を抜きにする極端なダイエットを行うケースがときどき見受けられますが、アスリートがむやみに食事回数を減らすと、たんぱく質やビタミン・ミネラルなどの必要な栄養素が不足し、筋肉量を大きく落としてコンディションに悪影響を及ぼす危険があります。たとえ減量中であっても、欠食はすすめられません。
特に女性の場合は、性ホルモンの分泌がカロリー摂取量と密接に関わっています。過度のトレーニングに加えて極端な食事制限を行うと、カロリー不足からホルモンバランスが崩れ、月経不順や無月経を引き起こす恐れがあります。さらに、女性ホルモンには骨を作る働きがあるため、ホルモンバランスが崩れると骨の健康阻害(骨密度の低下、疲労骨折のリスク拡大)につながり、カルシウム不足も相まって若年女性においても骨粗しょう症になるリスクが発生するのです。
女性選手は痩せることに対するプレッシャーや食事制限のストレスから摂食障害にもなりやすいため、極端な食事制限は行わず、ストレスなく楽しい食事にするよう工夫することが大切です。
極端な炭水化物制限の弊害
また最近では極端な炭水化物(糖質)制限がすすめている雑誌やスポーツジムがありますが、低炭水化物食は一時的な体重減少にはある程度効果が認められているものの、長期間の健康に及ぼす影響は明らかになっておりません。
アスリートの場合は一般人とは異なり、多くの炭水化物を運動のエネルギーとして利用しているため、炭水化物の不足は集中力の低下やトレーニング強度の低下、運動後の疲労回復の遅れにつながってしまいます。
さらに、「トレーニング後の食事方法」でも解説していますように、炭水化物の摂取は筋力を付けるために重要な役割を持っています。したがって単なるダイエットが目的ではないアスリートにとっては、炭水化物だけを極端に制限することは不適切なのです。
減量期のアスリートの食事方法
食習慣を見直す
食事内容を見直す前に、太りやすい食習慣がある場合はまずその改善に取り組みましょう。
朝食をとる
前回の記事でご説明しましたように、朝食の欠食は肥満の原因になります。
欠食している場合はまずはバランスにはこだわらずに、バナナ1本やヨーグルト・食パン・シリアルなど、時間のかからない簡単なものからでも食べるようにしましょう。
ただし、あくまでもバランスのとれた朝食へのステップですので、クッキーやチョコなどのお菓子や菓子パンは避けて下さい。特に子供の場合は、朝にお菓子を食べる習慣がつくと、なかなか直らないので注意が必要です。
夜食を控える
夜遅い食事も脂肪として蓄積しやすいので、筋疲労の回復の観点からも夕食は早めに済ませ、寝る前2時間はカロリーのあるものをとらないようにしましょう(※増量期のアスリートは夜食が必要な場合もあります)。できれば3時間以上空けるのが理想です。
よく噛んでゆっくり食べる
よく噛んでゆっくり食べることは大切ですが、噛む回数を数えているとなかなか継続しませんよね。
よく噛むためのコツは、がっつかないで少しずつ口に入れることです。一度に口に含む量が減ることで、自然と噛む回数が増えます。カレーや丼物でしたら小さいスプーンを使って食べるのも意外と効果的です。
そのほか、こまめに箸を置いて周りの人との会話を楽しむようにしたり、料理ができる方でしたら材料を大きめに切ったり、柔らかく煮込みすぎないように調理するのもよいでしょう。
適度なカロリー制限をする
一般人と同様に、アスリートもカロリーの制限量が多いほど体重減少量は多くなることが知られています。
ただし、アスリートを対象として、1日あたり500kcalと1,000kcalのカロリー制限をした場合を比較した実験では、カロリー制限の度合いと組織減少量には関連があり、500kcalの制限の方が体重減少に占める筋肉量減少の割合が少ないとされています1)。
このことから、摂取カロリーの制限量は少なめである方が、減量に時間はかかりますが筋肉の減少率は少なく効果的に体脂肪を落とせるということが分かります。
階級制競技のアスリートでどうしてもすぐに体重を落とさなければならないという場合には、大幅な食事制限もやむを得ませんが、ある程度筋肉も落ちてしまうことは覚悟しなければなりません。
適切な減量ペースとは?
また、リバウンドのリスクを減らし、コンディションに障害を与えずに体脂肪を減らすには、1ヶ月に1~2kgの体重減少が好ましいとされています。
体脂肪1kgを燃やすには、約7,200kcal分のカロリーを摂取量よりも多く消費しなければなりません。単純化して考えればこれを1ヶ月で減らそうとすると、7,200kcal÷30日=240kcalとなり、1日あたり240kcalの摂取カロリー量を減らせばよいことになります。
したがって、食事制限を行う際には、1日あたり200~500kcal程度のカロリー制限が望ましいと考えられます。
たんぱく質の摂取量は落とさない
カロリー制限をして減量に取り組んでいるときでも、十分なたんぱく質摂取を維持することは筋肉の分解を抑制するために重要です。
このグラフ2)では、カロリー制限食で高たんぱく質食(体重1kgあたり2.3g)のグループと普通なたんぱく質量の食事(体重1kgあたり1g)のグループを比較したグラフです。除脂肪体重とは体重から脂肪分を除いた、筋肉や骨・内蔵の重量をいいます。減量にあたってはほぼ筋肉量の減少と考えてよいでしょう。
たんぱく質量が普通の食事のグループに比べて、高たんぱく食のグループでは体脂肪量はほぼ同じだけ減少させながら、除脂肪体重の減少量(≒筋肉量の減少量)はかなり抑えられています。
その減少量は普通食と比べると約15%以下になっており、これにはたんぱく質の摂取が大きく関係していることが分かります。
この理由はカロリー制限をしていてもたんぱく質摂取が十分であれば、「窒素バランス」がマイナスになるのを防げるためと考えられています。
「窒素バランス」とは体内のたんぱく質の代謝を示す指標のことで、「摂取したたんぱく質の含有窒素量-体外に排泄された窒素量」で表されます。窒素バランスがプラスのときにはたんぱく質代謝が合成の方向にあり、マイナスのときには分解の方向にあるという判定ができます。
このことから、減量中も通常のトレーニング時と同量のたんぱく質を摂取しつつカロリー制限することが、リスクの少ない減量といえるでしょう。
ただし、この実験では高たんぱく質食のたんぱく質量がとても多いですが、過剰なたんぱく質は体脂肪をかえって増やしてしまう可能性もあるため、それはそれで注意が必要です。
激しいトレーニングを行っているアスリートならたんぱく質摂取量は体重1kgあたり1.2~1.7g程度を摂取するといいとされており、減量期もこの量をキープするくらいの意識でよいでしょう。
また余暇として週末に軽くランニングをしているくらいの方でしたら、体重1kgあたり1.0gでも十分です。
飲酒量(アルコール量)の制限
習慣的にお酒を飲んでいる場合は、アルコール量の制限が食事制限の上で最優先になります。
お酒に含まれる主なカロリー源はアルコールと炭水化物(糖質)。特にアルコールが多いことから「エンプティカロリー(空っぽのカロリー)」といわれ、体づくりに必要な栄養素がほとんど含まれておりません。また、おつまみも油っこいものが多く、脂質の過剰摂取につながりやすいです。
炭水化物・脂質・たんぱく質はなくてはならない栄養素ですが、アルコールはスポーツ選手の体づくりの観点では全く必要がありません。ごはんやおかずの量を調整する前に、まずは飲酒量を減らす、あるいはノンアルコールのお酒を選ぶように努力しましょう。
減量期以外のお酒の飲み方について詳しくは「お酒がアスリートに及ぼす影響とは?アルコールとの正しい付き合い方」をご参照下さい。
脂質と炭水化物の摂取量を調整
まず先にお伝えしたいことは、脂質は体のカロリー源になるだけでなく、体の細胞膜やホルモンを作ったり、脂溶性ビタミンの吸収を助けたりなどの役割があり、人の体にはなくてはならない栄養素であるということです。
特に女性の場合は脂質不足によって女性ホルモンが少なくなり、無月経を引き起こす危険性があります。食べ物の脂肪分を悪者にしすぎると、前述しましたコンディションの悪化のリスクが出てきますので注意しましょう。同じく炭水化物もご説明しましたように運動時のカロリー源や疲労回復などに欠かせません。
したがってどちらかを極端に制限するというよりも、ごはんを8分目くらいに抑えながら、ドレッシングはノンオイルにしたり、牛乳は低脂肪乳にしたりといったように炭水化物と脂質の両方をそれぞれ少しずつ減らす方が、コンディションを落とすリスクが少ないでしょう。
関連記事:低脂肪な食事の選び方 >
間食の内容や量を見直す
アスリートにとって間食は食事でとりきれない栄養を補うためによい場合もあるのですが、減量期の場合には食べているものや量を見直すとよいでしょう。
特に、ケーキやチョコレート・スナック菓子などの洋菓子類は、脂質も炭水化物も豊富に含まれていて高カロリーであるため、減量期に限らず普段から控えておくとよいです。
同じ炭水化物でもお菓子やジュースに含まれる砂糖と、お米やパンに含まれるデンプン、果物に含まれる果糖では吸収のされ方が異なり、砂糖はデンプンよりも速く吸収され、より脂肪に蓄えられやすい性質があります。
昼間の空腹が我慢できない場合には、間食はお菓子ではなくおにぎりや果物に換えるところから始めるのもよいですね。
「果物だって太るのでは?」と思うかもしれませんが、果物にはほとんど脂肪分が含まれておらず、例えばリンゴは丸々1個食べても130kcal、ごはん茶碗半分くらいのカロリーにしかなりません。ビタミンやカリウムなどの栄養もとれるので、アスリートの間食にはおすすめです。
野菜・海藻・きのこ類は毎食とる
摂取カロリーを減らす一方で、コンディションは崩さないようにビタミン・ミネラルの補給は欠かせません。野菜・海藻・きのこ類を使った副菜のおかずは、ビタミン・ミネラルの補給になるだけでなく、料理のかさを増して満腹感にもつながりますので毎食しっかり食べるようにしましょう。
また、副菜のおかずには食物繊維が多く含まれています。ごはんや肉・魚のおかずよりも先に食べることで、急激な血糖値の上昇を抑えたり、食べ物の脂肪分を吸着したりするので、体脂肪として蓄積されにくくなります。
プロテインは低脂肪なものを
トレーニング効果を最大限にするためにも、減量中であっても運動後(特に運動後30分以内)のたんぱく質補給は大切です。
運動後でも手軽にとれるたんぱく質源としてプロテインは便利ですが、摂り過ぎは脂肪の蓄積につながってしまいますので注意しなければなりません。またプロテインの商品は様々なものが市販されていますが、できるだけ脂肪分の少ないものを選ぶようにしましょう。
まとめ
・極端な食事制限はかえってリバウンドやコンディションの悪化を招いていまうため、適切な量を制限する。
・減量中であってもバランスのよい食事をすることで、筋肉の分解を防ぎ、コンディションを維持しながら痩せることができる。
参考文献
林淳三:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
吉田勉 監修:「わかりやすい食品機能栄養学」.三共出版,2010.
嶋津孝・下田妙子 編:「臨床栄養学 疾病編[第2版]」.化学同人,2010.
日本肥満学会編集委員会 編:「肥満・肥満症の指導マニュアル(第2版)」.医歯薬出版,2001.
第一出版 編:「厚生労働省・農林水産省決定 食事バランスガイド―フードガイド(仮称)検討会報告書―」.第一出版,2006.
小林修平・樋口満 編:「アスリートのための栄養・食事ガイド」.第一出版,2001.
田口素子・樋口満 編:「体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学」.市村出版,2014.
1) Rankin JW: Weight loss and gain in athletes. Curr Sports Med Rep,1:208-213,2002.
2) Mettler S et al.: Increased protein intake reduces lean body mass loss during weight loss in athletes. Med Sci Sports Exerc, 42: 326-337, 2010.