こんにちは。スポーツ栄養士の盛岡です。
体にとっての主要なエネルギー源となる糖質は、アスリートのトレーニングや体づくりにとって大切な栄養素。最近では糖質制限がメディアによく取り上げられますが、糖質補給の大切さはもっと認識されるべきなのではないかと私は思います。
そこで今回は炭水化物・糖質がとれていないとどんな弊害があるのかや、アスリートに必要な糖質摂取量についてご説明いたします。
目次
炭水化物・糖質とは
炭水化物・糖質・食物繊維の違い
まず炭水化物や糖質とはどういうものなのか、簡単にご説明します。
食べ物には様々な栄養素が含まれていますが、特に「炭水化物」「タンパク質」「脂質」の3つは生命の維持や身体活動に欠かせないものとして「3大栄養素」と呼ばれています。
炭水化物には体に消化吸収されてエネルギー源として利用される「糖質」と、あまり消化されずに腸まで届き、腸内環境の健康に役立つ「食物繊維」に分けられます。
さらにこの糖質には、「単糖類」「二糖類」「多糖類」という分類があり、糖質のうち、単糖類と二糖類を「糖類」といいます。
- 単糖類…分子が1つでそれ以上分解できない(例:ブドウ糖、果糖)
- 二糖類…分子が2つでできている(例:砂糖、乳糖)
- 多糖類…分子が3つ以上でできている(例:デンプン、グリコーゲン)
図:炭水化物・糖質・糖類の違い
糖質を含む食べ物
糖質は日常でとっているあらゆる食品に含まれています。
果物にはその名の通り果糖が多く含まれており、菓子類や清涼飲料水には砂糖やブドウ糖、ごはんやパン・麺類にはデンプンが主な糖質になります。
また、糖質は穀類以外にもじゃがいもやさつまいも・かぼちゃなどに多く、にんじんやトマトなどの野菜にも少量ながら含まれています。
糖質不足で起きるリスク
ヒトは必要なエネルギーのおよそ60%を糖質から得ており、これが不足すると以下のようなリスクが生じます。
スタミナ切れや疲労回復の遅れ
運動時における主なエネルギー源は糖質と脂質ですが、体に何キロも貯蔵されている体脂肪に対して、糖質の体内貯蔵量は圧倒的に少ないです。
食事で摂取した糖質は肝臓や筋肉などに「グリコーゲン」という形で貯蔵されていますが、その保存量は一般的な人で300~400gしかありません。
<人体内の糖質量 70kg男子>
肝臓 | 肝臓重量(1,800g)中 6% | 108g |
筋肉 | 筋肉全重量(35kg)中 0.7% | 245g |
血液その他細胞外液 | 全液量(10L)中 0.1% | 10g |
合計 | 363g |
Harper:Review of Physiological Chemistry (1973)
トレーニングを積んだアスリートであれば500g以上あるといわれていますが、それでもエネルギーとして換算すると1,500~2,000kcalと、半日分程度にすぎません。
食事をとらなければ簡単にエネルギーが足りなくなってしまい、特に長時間の運動を行う場合では枯渇しやすいです。糖質が不足するとスタミナ切れの要因になり、それに伴ってトレーニング強度の低下や集中力の低下にもつながります。
またトレーニング後の糖質補給が十分でない場合には、枯渇したグリコーゲンが回復せず、下のグラフのように疲労感が翌日になっても残ったままという状況にも陥ってしまいます。
Costill DL and Miller J: Nutrition for endurance sports: carbohydrate and fluid balance, int J Sports Med, 1:2-14, 1980.
疲労度が高い状態でトレーニングを続けると、オーバートレーニングや免疫力の低下に伴う感染症などにもつながりますので注意が必要です。
筋力の低下
食べ物から十分な糖質を補給できない状況では、体は筋肉や体脂肪を分解することによってブドウ糖をつくり、運動のエネルギーや血糖値の維持に使います(これを「糖新生」といいます)。
余分な体脂肪だけが落ちてくれればありがたいところですが、糖質が不足することによって筋肉のタンパク質も分解されて筋力が落ちやすくなるのです。
またタンパク質といえば筋肉の材料となる栄養素ですが、運動後にはタンパク質だけでなく糖質も一緒に摂取することによって、筋肉の疲労がより効率的に回復することが分かっています。
詳細記事:トレーニング後の疲労回復のための食事 ›
つまり体内の糖質の枯渇は、筋肉の分解を促してしまったり、せっかくのトレーニングの効果を弱めてしまうということに繋がるため注意しなければなりません。
運動時の低血糖
糖質が不足している状態で運動を続けると、疲労感が生じるだけでなく低血糖を起こす危険性があります。
脳にとって糖質(ブドウ糖)は重要なエネルギー源であるため、低血糖になると頭痛やめまいを起こしたり、さらにひどい場合には昏睡状態にいたることもあります。
精神的ストレス
ごはんやパンなどの糖質源を意識してとらないようにしている場合、精神的ストレスも無視できない大きな弊害です。
特に女性アスリートの場合には体重・体脂肪の減少を求めるあまり、極端な食事制限と過食によるリバウンドを繰り返すといった摂食障害を起こすケースが多く問題になっています。
摂食障害によってエネルギーが不足すると月経異常をきたすことがあり、さらにこの月経異常がホルモンの関係で骨粗鬆症にまで発展する危険性があります。この一連の症状は「女性アスリートの三主徴」と呼ばれおり、減量による糖質制限には注意しなければなりません。
関連記事:女性アスリートの三主徴と食事の注意点 ›
アスリートに必要な糖質摂取量
それではアスリートに必要な糖質量についてご説明していきます。
糖質摂取のガイドライン
あくまで目安ですが、スポーツ選手には以下の糖質摂取量が推奨されています。
タイミング | 状況 | 1日の摂取目安量 |
低強度の トレーニング |
調整期や 技術練習 |
3~5g/kg体重 |
中強度の トレーニング |
中強度の 運動プログラム |
5~7g/kg体重 |
高強度の トレーニング |
持久性運動 例)1日1~3時間の 中~高強度の運動 |
6~10g/kg体重 |
かなり高強度の トレーニング |
非常に強い運動 例)1日4~5時間の 中~高強度の運動 |
8~12g/kg体重 |
カーボ ローディング |
90分以上強度の高い 運動を行う試合の準備 |
10~12g/kg体重 |
Burke LM ,et al.:Carbohydrates for training and competition, J .Sports Sci.,29:S17-27,2011.を一部抜粋
アスリートではない一般の人の糖質摂取量はおよそ4~6g/kg体重です。
例えば体重が65kgの野球部員であれば、「高強度のトレーニング」を行っているということで
65(kg)×6~10(g)=390~600
という計算となり、390~600gの糖質を1日に摂取する必要があることになります。結構幅があるかと思いますが、実際の練習量に応じて、体重・体脂肪率の変化を見ながら食事量を調節することが大切です。
また目安として、1日に必要な糖質量のうちの6~7割は、主食となるごはん・パン・麺類から摂取できるとよいでしょう。
朝・昼・晩の3食だけでとるのは大変ですので、足りない分については間食のタイミングを活用し、おにぎりや和菓子、エネルギーゼリーなどを適宜取り入れてみて下さい。
食べ物に含まれている糖質量
各食品に含まれている糖質量は以下になります。
食事バランスガイドを活用しよう
自分が摂取している糖質量を毎回計算するのはなかなか大変です。
主な糖質源となる主食や果物については、厚生労働省が出している「食事バランスガイド」を使うのがおすすめです。
食事バランスガイドは1日に必要な食事量を、栄養素単位ではなく食品単位で計算するためのツールです。詳細については「アスリートの食事5つの基本」をご参照下さい。
まとめ
- 炭水化物には消化されてエネルギー源となる糖質と、あまり消化されずに腸内環境の改善に役立つ食物繊維とがある
- 糖質にはさらに単糖類、二糖類、多糖類という分類があり、このうち単糖類と二糖類を「糖類」という
- 糖質が不足すると、エネルギー不足からスタミナ切れや疲労感につながる
- 糖質が不足すると、筋力低下やトレーニング効果の低下を招く
- その他にも極度の糖質不足は、低血糖や精神的ストレスから深刻な病気につながる可能性もある
- アスリートに必要な糖質量は、糖質摂取ガイドラインを参考にする
- 必要な糖質量を計算するには「食事バランスガイド」も便利
参考文献
Harper:Review of Physiological Chemistry,1973.
Costill DL and Miller J: Nutrition for endurance sports: carbohydrate and fluid balance, int J Sports Med, 1:2-14, 1980.
Burke LM ,et al.:Carbohydrates for training and competition, J .Sports Sci.,29:S17-27,2011.
木元幸一・後藤潔 編:「生化学」.建帛社,2009.
「コーチング・クリニック」.ベースボールマガジン社,2018.
小林修平・樋口満 編:「アスリートのための栄養・食事ガイド」.第一出版,2014.
高松薫・山田哲雄 編集:「運動生理・栄養学」.建帛社,2010.