こんにちは。スポーツ栄養士の盛岡です。
練習やレースの後半にエネルギーが切れて体が一気に重くなった。こんな経験はマラソン選手なら誰しもあるのではないでしょうか?
様々なスポーツの中でも、マラソンは特にシンプルな競技で、技術よりもフィジカルの差により勝負が決まりやすいスポーツです。それだけに体力をつけるため、しっかりと食事をとることはとても重要になります。
今回は普段のトレーニング期におけるマラソンランナーの食事方法や、参考となるメニュー例についてご説明いたします。
目次
マラソンランナーの食事方法
必要な食事量・摂取カロリーは?
必要な食事量は市民ランナーであれば男性は1日2,600~3,000kcal、女性は1日2,000~2,300kcalの摂取カロリーが必要になります。
部活動や実業団でマラソンをしている方はもっと多くの量が必要になります。詳しくは「アスリートのカロリー計算方法」を参考にして下さい。
その人に必要なカロリーというのは体格や体質、運動量などによりどうしてもバラツキがある上に、自分が思っている以上に食事でカロリーをとっていたということもありますので、正確に計算することはなかなか難しいのが実情です。
食事量の調整は最終的にはこまめに体重・体脂肪率を測り、その増減で自分の適量を判断するようにしましょう。
普段はどんな食事をとればいいのか?
マラソン選手に限らずどの競技にも共通していることですが、「◯◯さえ食べればいい」とか「◯◯は一切食べないようにした方がいい」という食べ物はありません。私達の体は、何か1つの栄養素でできているわけではなく、それぞれの栄養素が体の中で複雑に作用し合いながら、体を動かすエネルギー源となったり、筋肉や骨・血液・免疫・ホルモンなどの体の各組織を作り出しています。
特に五大栄養素といわれる炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル(カルシウムやマグネシウム、鉄など)をバランスよく摂取することが大切で、主食・主菜・副菜・乳製品・果物のそろった献立が、各栄養素を自然とバランスよく摂取できる食事の理想になります。
普段料理をしない方でも、主食の量を適切に調整したり、乳製品や果物を毎日食べるようにするだけで、栄養バランスは格段に良くなります。料理区分ごとの役割や具体的な摂取量について、詳しくは「アスリートの食事メニューで抑えるべき5つの基本」をご参照下さい。
食事でできる体調管理
それぞれの栄養素をバランスよくとった上で、以下の経験が当てはまる方は、それに対応した栄養素をより意識してとるようにしましょう。
スタミナ切れ
マラソン選手はトレーニングでも試合でも多くのエネルギー(カロリー)を消費します。「スタミナをつける」というと肉や魚を食べることをイメージするかもしれませんが、最後まで全力で走りきるために最も大切な栄養素は糖質です。運動前にはごはん、パン、麺類などからしっかりと糖質を補給するようにしましょう。
アスリートに必要な糖質摂取量 ›
また、摂取した糖質をエネルギーに換えるためには、ビタミンB1の摂取も欠かせません。ビタミンB1は様々な食物に広く含まれていますが、特に玄米・豚肉・うなぎ・たらこには多く含まれており、一度に食べる量も多いため多くのビタミンB1を摂取できます。
「ごはんとパンのどちらがいいですか?」と聞かれることがありますが、これはごはんでもパンでも麺でもどれでも大丈夫です。ただし、ラーメンやパスタなど油っこいメニューの場合は消化に時間がかかりますので、食べた後は3時間程度の時間を空けるようにするとよいでしょう。
ケガをしたことがある
マラソンランナーに起こりやすいケガの1つが疲労骨折です。
疲労骨折を予防するためには、骨の材料であるカルシウムやマグネシウムと、骨の形成を助けるビタミンDやたんぱく質の摂取が必要になります。特に、カルシウムは日本人の多くが不足している栄養素で、マラソンランナーはさらに発汗によって体外に排出されてしまうため、積極的にとる必要があります。
カルシウムは牛乳やヨーグルト・チーズといった乳製品にとても多く含まれており、そのほか小魚や緑黄色野菜、豆腐、魚の缶詰などに含まれています。
アスリートに必要な牛乳・乳製品の摂取量 ›
また、ランニングフォームも大きく関係することではありますが、体が重いと膝や腰の関節痛を引き起こしやすくなります。体脂肪率が高い場合には、運動だけでなく適切な摂取カロリーの制限を組み合わせて減量に取り組むとよいでしょう。
アスリートの減量の食事方法 ›
貧血になったことがある
鉄分は日本人に不足しがちな栄養素で、特にランナーは汗で鉄分が多く排出されてしまうため鉄欠乏性貧血にかかりやすくなります。また、足の裏に何度も衝撃がかかるため、物理的な刺激で赤血球が破壊されてしまう溶血性貧血になる可能性もございます。
貧血の対策・予防には赤血球の原料である鉄分の摂取が大切です。鉄分は体に吸収されやすいヘム鉄と非ヘム鉄があり、ヘム鉄は牛肉の赤身やレバー・マグロなどの動物性食品に、非ヘム鉄は海藻や大豆、緑黄色野菜などの植物性食品に多く含まれています。
なお、非ヘム鉄はビタミンCやクエン酸と一緒に摂取することによって、体内での吸収がよくなります。
疲労回復が遅い・疲れが残る
練習後の疲労を回復させるためには、スタミナ切れの項目でも挙げました糖質とビタミンB1の摂取と、トレーニングにより損傷した筋肉の超回復を促すたんぱく質の摂取が必要です。たんぱく質は肉や魚・卵・大豆・乳製品に良質なものが多く含まれております。
また、疲労の蓄積を抑えるという意味では、運動前・運動中のBCAA(分岐鎖アミノ酸)の摂取は有効性が示唆されています。アミノ酸サプリはグルタミンやアルギニンなど様々な種類のものがありますが、特にBCAAは科学的根拠のレベルが比較的高いのでおすすめです。
トレーニング期のメニューの選び方
走る前の補食の選び方
朝や夕方にランニングを行う場合、空腹の状態ではトレーニングの強度も落ちてしまう上、低血糖を起こすリスクもありますので、走る前に軽い補食をとって糖質の補給を行いましょう。
ポイントは走る1時間~30分前までに、吸収の速い糖質をとることです。具体的には果糖や砂糖が中心であるバナナやオレンジジュース、エネルギーゼリー、カステラやようかんなどの和菓子、を食べるようにしましょう。
デンプンが主な糖質であるおにぎりやパンの場合であれば、消化に少し時間がかかりますので走る1~2時間前にすませるようにして下さい。
インスリンショックに注意
注意点として、直前にたくさんの糖質補給をすることは避けるようにして下さい。走り始めたときにインスリンが多量に分泌され、急激な低血糖を起こすインスリンショックを起こす危険性があるからです。
コンビニでのメニューの選び方
コンビニで食事を選ぶ際には、おにぎりだけ、菓子パンだけ、具の少ないパスタやカップ麺だけというメニューは栄養が糖質と脂質のみに偏ってしまいますのでNGです。
まずはエネルギー源になる糖質とセットで、筋肉の材料であるたんぱく質を補給できるものを選ぶようにしましょう。菓子パンよりは卵やツナ・カツを使ったサンドイッチ、おにぎりだけよりは肉や魚のおかずの入っているお弁当などがおすすめです。
予算の関係もありますが、さらにサラダや野菜ジュース・オレンジジュース・牛乳といった「副菜」「果物」「乳製品」の食べ物を追加すると、ビタミン・ミネラルも補給できて栄養バランスがとても良くなります。
メニュー例
エネルギー | たんぱく質 | 価格 (税込) |
|
ロースとんかつ弁当 | 745kcal | 30g | 590円 |
コーンサラダ | 40kcal | 1.8g | 148円 |
オニオンドレッシング | 80kcal | 0.4g | 22円 |
ヨーグルト | 131kcal | 5.7g | 113円 |
合計 | 996kcal | 37.9g | 873円 |
上の写真はコンビニで食事を選ぶときのメニュー例です。例では糖質とたんぱく質がとれるとんかつ弁当に、ビタミン・ミネラルが補給できるようサラダとヨーグルトを選び、1食あたり1,000kcal前後になるようにしております。
ヨーグルトの中でも特に「1日分の鉄分のむヨーグルト」はカルシウムだけでなく、貧血予防に役立つ鉄分を1日分※補給できるのでランナーにおすすめです。(※栄養素等表示基準値(2015)に占める割合)
外食でのメニューの選び方
外食の際には、栄養バランスを整えるのはどうしても難しくなります。うどんやそばでは炭水化物しかとれなかったり、反対に丼物やファミレスの定食では肉や揚げ物が多すぎて脂質の摂り過ぎになりやすいからです。
和定食がとれるお店であれば、主食・主菜・副菜をバランスよくとりやすいので、できるだけそちらで食べるようにしましょう。洋食や中華であってもサイドメニューのサラダなども注文するようにして、栄養バランスを整えるよう心がけたいところです。
野菜不足解消に!3分で作れる小松菜スムージー
野菜不足が気になる方や貧血ぎみの方には、簡単に作れる「小松菜スムージー」がおすすめです。
なぜ小松菜がおすすめかといいますと、小松菜は野菜の中でも特に鉄分やカルシウムが多く、しかもスーパーでも一年中売られているので習慣的にとりやすいからです。私自身もこのスムージーをよく飲んでいて、美味しいのでぜひ作ってみて下さい(たまに辛い小松菜を使ってしまったときにはつらいのですが…)。
お酒との付き合い方
走り終えて、シャワーを浴びた後の一杯は最高ですが、お酒に含まれるアルコールは1gあたり7kcalと高カロリーで(糖質は1gあたり4kcal)、栄養価も低いのでマラソンランナーの体づくりの点ではあまりプラスになりません。また、エネルギー産生や疲労回復に役立つビタミンB1もアルコールの代謝に使われてしまうというデメリットもあります。
健康によい適量はビールは中瓶1本、日本酒は1合、ワインはグラス1杯になります。おつまみの食べ過ぎにも気をつけて、ほどほどの量で楽しむようにしましょう。減量を行いたい方は、飲むとしたらカロリーオフのビールや、糖質の少ない焼酎やウイスキーなどの蒸留酒が比較的おすすめです。
またアルコールには脱水作用もありますので、飲んだ日の翌朝に走る場合は、走る前にしっかりと水分補給を行うように注意しましょう。
まとめ
- 主食・主菜・副菜・乳製品・果物の5つがそろった食事を基本とし、運動量が多いほどしっかりと糖質をとろう
- コンディションを維持するために、不足しがちなカルシウムや鉄分は意識してとろう
- 走る前はバナナやエネルギーゼリーなどの軽い補食をとって糖質を補給しよう
- お酒のアルコールは体づくりにはデメリットが多い。適量を心がけ、カロリーの摂り過ぎに注意しよう
参考文献
木元幸一・後藤潔 編:「生化学」.建帛社,2009.
林淳三:「改訂 基礎栄養学」.建帛社,2010.
日本栄養士会 監修:「『食事バランスガイド』を活用した栄養教育・食育実践マニュアル」.第一出版,2011.
加藤秀夫・中坊幸弘・中村亜紀 編:「スポーツ・運動栄養学」.講談社,2012.
文部科学省:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015年版)